誰と、どこで、走る?
近年加熱するマラソンブームは、どれだけ学生に浸透しているのだろうか。その動向を探るべく、今回は、昨春「The color run」というマラソン大会に参加した文化系女子大生Kさんと、マラソンのプロともいえる塾内競争部の陸上走者粟田選手のお二人に話を聞いてみた。マラソンを始めたい、あるいは今年のマラソン大会に参加してみようかと考えている読者は必見である。
【アマチュアランナーKさんの場合】
―始めたきっかけ
高校時代に料理部だったKさんは、人間ドッグの結果を受けて健康に気を遣い始めた父親が走り始めたところに、便乗する形でマラソンを始めた。日頃は仕事で忙しい父親との時間が増えると期待したからだ。そして父親が海外へ赴任した今も、一人で継続している。
―走るためにかけている時間やお金は
ランニングを生活リズムに組み込んでいる訳ではなく、特に決めてない。暇な時は週に2、3日走ろうとしているが、実際には…。忙しい時なら、月に数回程度。走るときの服装は、着古した適当な私服。始めるときにモチベーションをあげようと、靴だけは2万円ほどのものを新調した。とはいえ基本的には近所を気軽に走るだけなので、施設利用費や移動費は全くかからない。
―マラソンの楽しみ方
一人で自宅近辺を走る以外にも、付き合ってくれる友達がいるときには、皇居まで行くこともある。ランニングの継続を支えてくれるアプリも使用。走った距離や時間が記録され、SNSにも投稿できる。ネットで繋がっている友人たちと、お互いの走った履歴を比べて競争したり、励ましあったりする。
―マラソンの効果
主に友達とのコミュニケーションツールに役立っているように感じる。「最近よく走ってるんだ」と言うと、興味を持ってくれる人は多い。お薦めのランスポット・ロッカー施設など、情報交換で会話が弾む。また、走っていなくても健康に意識を持っている人からは反応がいい。ただ、一度だけランニング中にトラブルを起こしたこともある。夏場の給水を怠り、脱水症状で倒れた。
ーThe color run出場の感想
友人の誘いがあって参加した。ランというからには走るのかと思っていたが、実際にはほとんど「5キロウォーク」。みんな身体に色をつけることに夢中になり道が詰まるので、走ることはほぼ不可能だった。あくまでイベントの一つとして開催されている。参加者は若年層の団体が大半だったが、小さな子供を連れた家族の姿もちらほら見られた。 また当日の注意事項として以外と盲点なのが、荷物の置き場所。主催側が提供する荷物置き場はオープンスペースのため、安全な保管場所を求める場合は個人でロッカーを探すなどの必要があったという。
走るだけならお金もかからず、時間も問わない。その手軽さは、忙しい大学生にも受けているようだ。ただし、安全に楽しむには、走るときの体調管理や大会会場での防犯対策など、最低限の事前知識も身につけておくといいだろう。
【陸上競技者粟田選手の場合】
街中に市民ランナーが増えていることを、本気で走るマラソン競技者はどのように感じているのだろうか。今年度、マラソン塾内新記録となる2時間22分21秒を出した粟田貴明さんに話してもらった。
―陸上競技とマラソン
陸上競技は中学1年生から始めた。フルマラソンは福岡国際マラソン大会に、昨年度と今年度と2回出場した。
―走るためにかけている時間やお金は
陸上にかかる費用は、部から支給される。食費や治療費まで入れたらかなりの金額になる。競争部の寮で出される食事というのも、走る選手のために栄養バランスを考えられたもの。走行距離は月に平均600㌔。合宿がある8月は、ひと月で合計1000㌔にもなる。
―マラソンの楽しさ
練習がきついと思ったことはあるけど、つらいと思ったことはない。塾内新記録を出した時はきつさも感じず、楽しみながら走っていた。
―マラソンの効果
走らない日が続くと肩がこってきたり、太ったり体調は悪くなる。一方でスポーツ心臓の持ち主は心筋梗塞になりやすいというデータがあるという。過度なトレーニングは身体に負担をかけるため、ランナーは必ずしも健康という訳ではない。
―昨今のマラソンブームについて
ウェアの種類も増え、最近ではこだわりのあるものを着て走っている年配のランナーもよく目にする。長距離を走ることについても、昔は周りから「苦しいのに、なんでわざわざ走るのか」という視線があったが、最近は楽しいから走るということを理解してくれる人が増えてきた様に感じる。
ランナーが増えても、今まで通りの練習に支障はない。コートなど特別な施設を必要とするスポーツと違って、競技者間の場所の取り合いは起こらない点も、マラソンのいいところ。
―東京マラソンについて
東京マラソンのエリートの標準記録が2時間21分。塾内記録をもってしても届かないその記録を突破するのは実業団の選手が多く、学生では5人程度。
―大学を卒業してからのマラソン
仕事から帰ったら玄関先で着替えてそのまま走りに行くという話もあるほど、社会人で続けるのはストイックさが必要だと聞く。
大学での目標は箱根駅伝での学連選抜に入ることだったという粟田さん。目標には届かなかったものの、高みを目指して4年間陸上競技に取り組んでいたのだろう。自分の限界のその先に挑む姿はかっこよく、声援を送りたくなってしまった。