体育会日本拳法部の存在をご存じだろうか。もしかすると拳法と聞いて、漫画『北斗の拳』の北斗神拳を思い浮かべる方もいるかもしれない。体育会拳法部が取り組んでいる日本拳法は突きや蹴り、投げなどの多種多様な技を用いた総合格闘技である。そんな拳法部の知られざる魅力に迫るため主将にインタビューを行った。
お話を伺ったのは、拳法部の2015年度主将を務める渡邉暢之さん(経3)。「高校時代は硬式テニス部に所属していたが、大学では何か新しいことに挑戦したかった。体育会の部活なので生半可な気持ちではできないが、そのぶん一生懸命打ち込めると思った」と拳法部入部のきっかけを話す。部員の総数は9人と少人数だ。経験者もいるが彼のように大学から新しく日本拳法を始める人も多い。
渡邉さんは福島県の出身。4年前の2011年には東日本大震災を経験した。この震災体験が彼の原動力になっているという。「震災を経験して、人間は身体的、物質的に弱い存在であるということを本能的に感じ、強くなりたいという気持ちがわき上がった。実戦性の強い日本拳法という格闘技を通して身体的な強さを身に付けられると思った」と語る。
練習は日吉キャンパス内にある蝮谷道場で週に4回から5回の頻度で行われている。部員の学部構成はさまざまであり、中にはSFCに通う部員もいる。そのため、練習日はある程度の融通が利くようになっている。
日々の稽古に加えて、所属する経済学部のゼミナールで研究にも励んでいるといい、まさに文武両道を体現している渡邉さん。彼のように、本人次第では部活動と学業やアルバイトを両立させることは十分可能であるという。
蝮谷道場内では体育会の少林寺拳法部も練習に励んでいる。武道に詳しくない人にとって、日本拳法と少林寺拳法の違いは分かりにくいかもしれない。日本拳法は独自の防具を装着して実際に加撃する点が特徴である。実際に試合を観戦すれば、その動きの激しさに驚くことであろう。倒れた相手への間節技以外の攻撃も認められており、比較的縛りの少ない競技であると言える。
練習内容は大きく2つだ。1つは型の稽古であり、防具を付けずに決められた動作を繰り返す。もう1つは、いわゆる乱取りと呼ばれるもので、防具を付けて実際の試合形式で練習を行う。技術指導者がOBに多い慶應の日本拳法部では、伝統的に型の稽古を重視する傾向にあるという。
「まだ参加人口がそれほど多くないこともあり技術体系が確立しておらず、自由度が高い。そのため、どのように試合を設計していくのかは個人に任されている。そこが面白い」と日本拳法の魅力について渡邉さんは語る。練習自体は個人の技術の上達がメインだが、試合は基本的に団体戦の形式で行われるため、チーム全体のモチベーション向上や勝利への意欲を燃やすという点ではチームワークが重視される競技である。
慶應の体育会日本拳法部は今年で創設63年目を迎える伝統ある部活であるが、同様に長い歴史を持つ早稲田や明治、中央といった他大学の日本拳法部と比べ実績などの点でやや劣っていることを渡邉さんは懸念する。「強い組織を作りたいが、部員が少ない。そのため、ひとりひとりが強くならなければならない」と新主将としての目標を意気込んだ。
話の中で渡邉さんが引き合いに出したのは福澤諭吉の「半学半教」の精神だ。「お互いに学び合い教え合う。部内でそういった環境作りをしたい。先輩が後輩に指導するのはもちろんだが、後輩の頑張る姿を見て先輩も刺激を受けられる部活にしたい」と力強い決意を表明した。
もし日吉キャンパスの蝮谷を訪れる機会があれば道場を覗いてみるのもよいだろう。そこでは日々稽古で切磋琢磨する部員達の姿が見られるはずだ。(川瀧研之介)