東北電力は女川原子力発電所2号機の再稼働に向けて歩みを進めている。
女川原発は東日本大震災発生時、約13mの津波に襲われた。津波は発電所の敷地高さを越えて主要設備に押し寄せることはなかったが、海水が地下の取水路と配管貫通口等を通って流入し、2号機原子炉建屋附属棟の地下が浸水、非常用発電機を冷やす冷却水ポンプが故障した。国際原子力事象評価尺度(INES)でレベル2(異常事象)と評価されたが、他の電源が確保出来ていたこともあり過酷事故には至らず冷温停止し、現在も安定した状態で停止している。
一般的に原発の再稼働には2つのステップがある。1つ目が原子力規制委員会が定めた原発の新規制基準への適合性を確認する安全審査で、2つ目が電力会社と自治体が結ぶ原子力安全協定に基づく、原子炉設置変更許可申請に係る自治体の事前了解、いわゆる地元同意だ。
続く審査会合 来年4月以降の再稼働目指す
東北電力が女川原発2号機の再稼働に向けて新規制基準への適合性審査を申請したのは2013年12月だ。被災した原発としては初の申請となった。
原子力規制委員会が定める新規制基準の最も大きな特徴は過酷事故が起きた時の対策を設けた点だ。他にもテロ対策、自然災害の想定を大きく引き上げること、などが盛り込まれている。
女川原発でも安全対策が続く。原子力発電所の耐震設計の基準となる基準地震動を580ガル*1から1000ガルに、津波の想定も13.6mから23.1mに引き上げた。海抜29m、全長800mの防潮堤の建設も進む。電源の確保も充実させ、過酷事故発生時のためのフィルター付き格納容器ベント設備*2も設置する。
しかし、原子力規制委員会で開かれた女川原発2号機の審査会合は34回(3月10日現在)。一方、合格した九州電力川内原発、関西電力高浜原発は約70回程度の審査会合を重ねた。東北電力は2016年4月以降の再稼働を見込んでいるが、まだ先は長い。
3自治体の同意は必須 周辺自治体は同意権含まず
2つ目のステップは安全審査合格後の地元同意だ。
現在、東北電力は女川原発の立地自治体の女川町、石巻市、宮城県と地元同意権を含んだ原子力安全協定を結んでいる。また女川原発から30km圏内に位置する登米市、東松島市、涌谷町、美里町、南三陸町の5市町とは安全協定について協議を行っていた。一部には地元同意権を含んだ立地自治体並みの安全協定を求める声もあったが、地元同意権を含まない立地自治体に準じる安全協定で合意した。つまり、少なくとも立地自治体である3自治体の同意を得なければ再稼働することはできない。
焦点となるのは女川町、石巻市、宮城県の同意をどのような形で得るかだ。川内原発を例にとれば、立地自治体である薩摩川内市と鹿児島県の同意は、薩摩川内市議会と市長、鹿児島県議会と県知事の4者の同意が地元の同意とされた。東北電力は「再稼働にあたっては地域の皆さまのご理解が何よりも重要だと考えているが、再稼働に向けた手続きについては立地自治体をはじめとする皆さまとご相談しながら対応したい」としている。
求められる「より一層」の信頼醸成
しかし、本当の地元同意とは何か。それは地域の人たちが同意することに他ならない。では立地自治体の人たちは女川原発再稼働についてどう考えているのだろうか。
石巻商工会議所の浅野亨会頭は「福島での東京電力の対応を見ているとどちらが良いとは言えないが、原発が動きだせば地域経済が活性化するのは事実だ」と語る。現在、定期検査中の女川原発で働く職員の数は約2000人だが、震災前、稼働していた時は約3000人働いていたこともあった。その人たちが地域に住み経済活動を行うことは地方都市にとって大きい。
しかし石巻市の住人からは「事故を起こしたら誰も責任をとれないのだから原発はいらない」(40代男性)、「事故発生後から不信感はある」(60代女性)という意見もあり、原発を取り巻く市民感情は複雑だ。
東北電力でも年に2回、発電所員が女川町と石巻市牡鹿半島部の全世帯を訪問し発電所の現状を知ってもらう「こんにちは訪問」を行っている。
女川原子力発電所総務部広報課の石井悟課長は「発電所の取り組みを理解して『がんばれよ』と言ってくれる人もいるし、不安があるという人もいる。東北電力に任せると思ってもらえる関係を作ることが重要だ」と語る。
もし仮に原発で事故があった時、最も影響を受けるのはその地域の人たちだ。原発再稼働の是非について本当に問われるべきは、首長や議員の政治的な判断もさることながら地域住民の賛否ではないだろうか。原発の安全性はその大前提に過ぎない。(寺内壮)
*1 加速度の単位で地震の揺れの大きさを表す。1ガルは1秒間に1cmの割合で速度が上がる状態を指す。東日本大震災時には女川原発1号機で567ガル、福島第一原発では550ガルを記録した。
*2 格納容器ベントとは、事故発生時に格納容器内の圧力が高まり、冷却のための注水が困難になったり、格納容器が破損したりすることを避けるため、格納容器内の空気を外部に放出して一時的に圧力を下げる措置のこと。外部に放出する空気には放射性物質が含まれるため、1/1000以下に低減するようフィルターの設置が義務付けられている。