大学自治の在り方問われる
今年度の全塾協議会選挙が再選挙になった。全塾協議会は「塾生の最高議決機関」とされており、いわば慶大における生徒会のような役割を果たす。だが先の選挙の低投票率にも見られるように、塾生は大学自治に興味を持っていない。かつての大学自治が盛んだった時代と比べ、全塾協議会は在り方が問われる時代になったと言える。「組織の成り立ち」「低投票率の要因」「自治会費問題」の3点を中心に考えてみたい。(長屋文太)
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~組織の成り立ち~ 自治会の崩壊を経て
☆全塾協議会の沿革
1960年代後半:全塾協議会が不成立となる
1977年:全塾協議会が自治会費配分を担当するようになる
1993年:事務局長・次長の公選制を開始
2009年:選挙の投票率が10%を下回り初の再選挙を実施
2014年:再び選挙の投票率が10%を下回る
かつて慶大には全塾自治会という学生による自治組織が存在しており、そのときに徴収が始まったのが自治会費である。塾生の福利厚生を目的として全塾生から徴収され、塾生に還元をする意味合いを持った。しかし1960年代後半、学生運動の失敗を経て会は崩壊。その後、自治会は成立しない状態が続いた。
そのような中、1977年、全塾協議会が開催され、自治会の財務業務を担うことが決定した。全塾協議会は、文化団体連盟、体育会、学術研究団体連盟(当時)、全国慶應学生連盟、全塾ゼミナール委員会の5つの団体による組織されている協議機関だった。全塾自治会が再び成立するまで暫定的にその業務を全塾協議会が担うとされた。だが、その後も自治会が再建されることはなく現在に至り、全塾協議会は実質的な自治組織としても機能するようになっていく。
~低投票率の要因~ 役割知らない学生が7割
全塾協議会の大きな役割として挙がるのが、自治会費の分配である。自治会費は全塾生から毎年集められているため、全員に利益が還元されるようにする必要がある。だが本紙が2012年に行った世論調査では、全塾協議会の役割について70%の塾生が「全く知らない」と答えた。全塾協議会の役割の不認知が選挙での低投票率を招いていることも考えられる。
事務局長の公選制が始まったのは1993年。それ以前は会の規約等も明文化されておらず、活動内容の広報も行われていなかった。初回選挙の投票率は12・5%。この選挙が、全塾協議会の改革の第一歩になったとはいえ、約20年経った現在、投票率は落ち込んでおり、塾生を代表する組織にはなりきれていない状況だ。
~自治会費問題~ 構造のねじれ解決せず
現在、塾生から徴収されている自治会費額は一人あたり年間750円。全塾協議会はこれまで自治会費の値上げを検討してきた。昨年には約4千人分の署名を集め、全塾協議会の定例会で自治会費の増額を決議した。このような過程を経て、慶大学生総合センターでは、値上げした額での代理徴収の依頼を大学に取り次ぐのが適切であるか検討を行った。だが最終的に、このとき示された学生総合センターの見解を踏まえ、自治会費の値上げは白紙になっている。
学生総合センター長の伊東裕司教授によれば、「値上げの必要性は理解している」としたうえで、値上げ後の額での自治会費の代理徴収を、次に挙げる4つの問題点があるため、適切ではないという判断を示した。まず、全塾自治会が成立していない状況で、自治会費という名目がふさわしいかということだ。次に、自治会加入への選択権が曖昧である点だ。さらに3つ目として、自治会費の返金手続きも存在していない点が挙がった。4つ目に、全塾協議会での低投票率や署名数から、反対意見を持つ学生の民意の汲み上げが十分であるとは認められなかったことだ。
自治会費不足の問題は1980年代から指摘されていた。だが自治会の代行業務を全塾協議会が担っているという構造のねじれがあるために自治会費の値上げが難しかった。全塾協議会はそのような中、塾生を代表する組織であることを示して、値上げの正当性を示そうとしてきたが、現状では問題の具体的な解決は難しくなっている。
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全塾協議会が抱える複雑な成立過程や低投票率の問題が起因となり、自治会費の不足問題が現在まで続いてきた。自治会費がどの団体に具体的にいくら足りないのかより詳しい説明が必要であるのは確かだ。だが忘れてはならないのは塾生のためになる解決が望まれているということだ。
自治会費が還元されていることを塾生が実感するには、福利厚生を目的とした各団体の働きが鍵となる。それらの団体の必要性を見直し、そのうえで自治会費が足りないのであれば対策を講じる必要が出てくるはずだ。