毎年冬になると、インフルエンザウイルスをはじめとする感染症の予防が叫ばれる。また今年の3月から爆発的な広がりを見せたエボラ出血熱や今年の夏に話題となったデング熱など、近ごろ感染症が取り上げられることが多い。

しかし、こういった感染症に対して正しい理解が社会的になされているかというのは甚だ疑問だ。え

感染症には誤解からくる偏見がつきものである。アメリカではエボラ出血熱の流行に伴って感染地で治療を行い、帰国した医療者に対する差別的処遇が問題となった。さらに、感染症に対する正しい理解は偏見を防ぐほかにもその予防に非常に有効だといえる。

では、感染症に対して何を理解していることが正しい理解と言えるのだろうか。

感染経路について「正しく」理解する

まずなにより「感染経路」を知ることが必要だと慶大学医学部感染症学教室の岩田敏教授は話す。感染症の感染経路には「空気感染」「飛沫感染」「接触感染」の3種類が挙げられる。

空気感染する感染症は感染粒子が小さいため、空気中を漂うことで広範囲の感染を引き起こす。しかし空気感染する感染症は現在、結核・麻疹・水疱瘡などごく少数だ。

この時期に流行するインフルエンザなどは飛沫感染だ。これらの病原菌は感染者のくしゃみ、咳などから飛び散る飛沫に含まれている。飛沫を浴びる、あるいは飛沫のついた物を触った手で目に触れたり、ものを食べたりすることによって感染する。飛沫感染の場合、病原菌は鼻水や唾液などに包まれているため半径1㍍以内程度にしか飛散しない。

接触感染とは、感染者の血液や粘膜などの体液や嘔吐物、汚物などに触れることでウイルスが体内に侵入したりすることを代表とする感染経路のことだ。接触感染には経口感染と創傷・皮膚・粘膜からの感染があり、病原菌のついた手で目や口、鼻などを触ることや性行為・輸血などでも感染する。ほかにもデング熱のように蚊などを媒介とする感染症も存在する。

エボラ出血熱の対応策とは?

エボラ出血熱は接触感染だが、5種類あるエボラウイルスの中でも、今回流行しているエボラウイルスは感染力が強い。そのため、飛沫感染にも注意が必要だといわれる。しかし、患者と同じ空間に居るからといって感染することはなく、空気感染を恐れる必要はない。また、エボラ出血熱は発症前の感染者からの感染は基本的にない。  アメリカで実際にあったように、発症前に出歩いていても問題はないのである。これらのような情報が周知されていれば、差別や偏見は生まれないだろう。

そして感染経路を理解すれば、おのずと予防法も理解できる。医療関係者ではない私たちが完全な予防をすることは難しい。しかし、手洗いを徹底することは、ある程度の予防に有効だと岩田教授は言う。飛沫感染でも、接触感染でも、手についた病原菌を体内に入れないことは重要だ。

現在、空港での水際対策が行なわれているエボラ出血熱。サーモグラフィーでの体温測定のほかに、ギニア・リベリア・シエラレオネの三国からの帰国者は、健康状態を検疫所に21日間報告しなければならない。しかし、それ以外の発生国渡航者に関しては本人の自己申告による検疫のみだ。こういった水際対策を強化するために感染症法の改正案が審議されている。国の対応にも関心を持つ必要があるだろう。

もし感染者が国内に出た場合でも、怖がるべき部分とそうでない部分とを社会全体が認識していれば冷静に対応できる。感染経路などの正しい知識を個人が得ていることは感染拡大を防ぎ、偏見を根絶するのに何よりも重要だといえるだろう。  (向井美月)