12月5日準決勝 vs専修大学 ○ 99―67

試合終了後、記者会見場に訪れた専修大・中原監督の憮然とした表情が、この試合の内容を物語っていた。

「思った以上にトランジションが速くて。1部で戦ってきて、ビッグマンがあんなに走るチームは無かった……」(専修大・中原監督)

ここまで圧倒的な力で勝ち上がってきた慶大だが、関東1部を3位という好成績で終えた専修大は自分達より「格上」のはずだった。おまけにリバウンドに強く、中心選手はほとんどが4年生で固められた相手。天理大との準々決勝を終えた#4鈴木も「苦手なタイプ」と話していた。

だが、40分間戦った両者の差は32点。慶大が圧倒的な力を見せつけて専修大から完勝。2年ぶりの決勝進出を決めた。

3Q前半、小林のオフェンスで勝負あり!

立ち上がりから、ペースは慶大のものだった。先制は#9小林(3年・福岡大附大濠)の3Pのバスカンによる4点プレー。専修大はすぐさま#11藤井の3Pに#28能登が続き、逆転に成功する。だが、慶大は#7岩下(2年・芝)のスクリーンからフリーになった#16二ノ宮(2年・京北)が3P、さらに相手のターンオーバーから速い展開でボールをつなぎ、#7岩下のアシストパスをまた#16二ノ宮が決めて専修大を押し戻す。スタートに名を連ねる2年生2人のコンビプレーに、慶大の応援席は盛り上がる。専修大も#28能登、#15増川のインサイド陣のミドルシュートで返していくが、その都度慶大は気持ち良いくらいに速攻から2点ずつを積み重ねていく。開始6分弱で24―14とし、専修大のタイムアウトとなった。

205センチの高さは、対戦相手にとっては脅威以外の何物でもない。#7岩下の手が、リバウンドに伸びる。
205センチの高さは、対戦相手にとっては脅威以外の何物でもない。#7岩下の手が、リバウンドに伸びる。

「#4鈴木がトーナメントで法政にやられたのを学生に言ってて、私が言わなくてもやってくれている。それが良かったのかと思います」(佐々木HC)

「ここ(ベスト4進出)で満足してくることが多いので、若いチームの課題でしたが今日は良い入りが出来ました」(#4鈴木、4年・仙台二)

タイムアウトが明けると、1Q終盤に専修大はゾーンを展開。これに慶大は苦しむ。1Q最後の4分で加えた得点は3点のみ。だが、専修大も#15増川がリバウンド争いで立て続けに笛を吹かれ、#22鈴木はトラベリングと、畳み掛けることが出来ない。1Q終了間際に#10飯田が連続で決め、#15増川も続くが、序盤のビハインドに追いつくには至らず、27―20と慶大リードで1Qを終えた。

そして、2Q。専修大は1Qに成功したゾーンを続けるが、ここで慶大と専修大との間に差が出た。慶大はいきなり#7岩下がバスカン。ファールした#15増川はこれが3つ目となり、専修大に動揺の表情が出る。#28能登が決め返すが、ここから慶大のリズム一辺倒になった。#11田上(3年・筑紫丘)から#7岩下への合わせが決まり、続いてアシストした#11田上もシュートを沈める。#9小林がディフェンスリバウンドをそのまま運んでレイアップを決めると、ゾーンを揺さぶる速い展開から今度は#13酒井(2年・福岡大附大濠)が決めた。この間に専修大はインサイドの要である#28能登が2つ目のファール。屈強なリバウンダーが揃う専修大の中で最もリバウンドに絡む選手のファールトラブルで専修大は2Q4分、前半2つ目のタイムアウトを請求した。得点は38―22に動いていた。

ゾーンが不発と見るやタイムアウト明け、専修大はゾーンの手を弱めるが16点差は重くのしかかった。直後に#28能登がファールを犯す。要となるべき選手までも2Q途中で3ファールとなっては、成す術がない。

「本来的に言うと、向こうの#22鈴木とか#0堤(どちらもガードの選手)をファールトラブルに誘いたいんです。だから今日は特殊ですね。基本的にはガードをファールトラブルに誘いたい。でもやっぱり、こんなことを言っちゃいけないんだけど、バスケットの技術では無いところでファールをしてるんです。例えば飛ぶ前にちょっと背中を押したりしてて、それを審判がよく見てくれた。あるいはルーズボールに行く時にちょっと相手を押さえておいて取りに行く。そういうのは絶対バスケットのプレーじゃないと思ってて、彼達(慶大の選手)にも『そういうことを(専修大は)やるけど、それは技術じゃないよ』と。それをファールに取ってくれたんでああいう展開になった。昨日の専修の戦い方をビデオで見たら、そういうことを盛んにやってる。リバウンドを争う相手が飛ぶ前に押したり、ダッシュするときに相手の腕を小脇に挟んでみたり。そういうことだから、多分審判がそこをよく見てくれたんだと思う」(佐々木HC)

この日30得点の#9小林が、ロング3Pを決める。「シュートタッチは悪くない」と頼もしいコメントが出た。
この日30得点の#9小林が、ロング3Pを決める。「シュートタッチは悪くない」と頼もしいコメントが出た。

前半を52―37で折り返した勝負が決したのは3Q開始からの5分間だった。まず慶大#11田上と専修大#15増川が決めあう。ここから慶大は、再びゾーンを開始した専修大ディフェンスを前に、手始めに#16二ノ宮のアシストから#9小林の3Pが炸裂。今度はその#9小林のアシストパスを#11田上が沈める。慶大はこの時間帯#9小林が、この大会でのそれまでの低調な働きを取り返すかのように、ドライブに3Pと手が付けられない状態となった。「2年前の決勝のビデオを見て『みんなを決勝に連れて行こう』と思った」(#9小林)。この舞台での大活躍は#9小林がやはり慶大のエースである証だった。3分過ぎに専修大がタイムアウトを取ってもその流れは変わらず、#16二ノ宮→#13酒井→#11田上というスムーズなパスの展開から、今度は#7岩下がゴール下を決めた。さらに#9小林がこの日3本目となる3Pを決め、5分が経過した時点で70―41という、インカレの準決勝にしては考えられないような点差がついた。

実質専修大が試合をひっくり返すのが不可能な状況となり、多くの観客や報道陣はもちろん、慶大の選手達もこの時点で勝利を確信していただろう。逆に専修大の各選手に去来する思いはどのようなものだったのだろうか。専修大は最後まで4年生が中心の主力選手をベンチに下げるということはせず、この姿勢は賞賛すべきことだが、最も大事なのはあくまで結果。私自身も、ここからは試合の流れをメモすることよりもカメラに集中することにした。

試合終了のブザーが鳴ったときにコートに立っている慶大の選手は、1年生ばかりだった。

勝因はゾーンアタックの成功、そして、伝家の宝刀・トランジション。

拍子抜けするほどの圧勝。慶大にとってまず大きかったのはゾーンアタックだった。慶大はその速いパス回しに揺さぶられる専修大に対し、選手が簡単にスペースを見つめ、ボールも人も良くそこに飛び込んだ。そしてミスの許されない局面でも、慶大のシュートはほとんど落ちなかった。これにより専修大がディフェンスで混乱をきたしていたのは想像に難くない。

「慶應はこの2カ月でレベルアップしてますよ。ゾーンアタックも、リーグ戦とは違った形です」(筑波大・吉田監督、報道陣との雑談の中で)

「リーグ戦が終わって、4対4で相当走る練習をしたんですよ。トランジションゲームを追及して。それとゾーンアタックの練習を。それで変わったんだと思います」(慶大・佐々木HC)

この日の#16二ノ宮は13アシスト。ポイントガードとしての仕事をきっちりこなした。
この日の#16二ノ宮は13アシスト。ポイントガードとしての仕事をきっちりこなした。

専修大の陣形が整わない場面では、やはりトランジション。慶大は得意の速攻で小気味良く加点していく。専修大は、現在大学界で最もリバウンドに強いチーム。ところがその専修大を向こうに回して、チームのリバウンド数で3本勝った(慶大40本、専修大37本)ことがトランジションの展開に繋がった。専修大のインサイドのファールトラブルが大きかったが、フォワードの各選手がリバウンドを争う攻防でボールに素早く反応出来たのもその要因だろう。混戦の中でもボールをしっかり保持し、相手の手が伸びる前にボールを運ぶ選手にパスを出す。リバウンドの次には速攻。文字通りのトランジションの、まさに「完成形」である。冒頭の専修大・中原監督のコメントは、その象徴だ。私が「中原さんがそういう風に話していました」と言うと、慶大・佐々木HCは口元に微笑を含みながらこう言った。

「向こうもビッグマンは3人くらいいるけどね(笑)。僕が学生に言ってあるのは、『ハーフコートでやってるバスケットが、本当に今、日本にとって正しいことか、世界に行く時に近いことか』。もちろん、そうじゃないと思ってて、大きくても小さくてもまずは走らないと。例えば、僕は良く言うんだけど、アテネ五輪の前にあの大きい中国がギリシャにゾーンプレスを掛けられて、もうボロボロになったんですよ。2m級で、NBAに行ってる連中がゾーンプレスをやるんですよ。そうしたら日本の小さい連中は抜けられませんよ。ということは、能力の無い慶應は能力を持っている他大学に対してはしっかりトランジションゲームを仕掛けて、ハーフコートバスケットをやっているチームが慶應には絶対勝てないようにする。だから『今度(のインカレ)はハーフコートバスケットにチャレンジするよ』と言ってありますんで、今日は相当学生も充実感があるんじゃないですか。ハーフコートバスケットに勝てたっていうので」

慶大にとって、今やトランジションは慶大を慶大たらしめる「理念」だ。確固たる理念の存在が、今の慶大の最大の拠り所である。専修大がゾーンを敷き、トランジションが手詰まりになる時間帯はあったが、佐々木HCは「どうにもならなかったらフルコートのゾーンプレスでトランジションゲームに誘い込むということは考えていたので、出来るだけ早い時間にゾーンプレスを掛けて。ほとんど今日はやるまでも無かったけど、最終手段はそれを持ってるから、10分あれば10点くらいはひっくり返せるかな、と。前半なんかは向こうの鈴木君なんかが相当目いっぱいやってたので、『4Qには足が止まるよ』っていうのは、学生にも少し言っていた」と、あくまでトランジションで勝ちきる考えだった。

指揮官の言うように、やはりハーフコートバスケットには、トランジションの展開には叶わないのだ。

青学大、準決勝で涙……。決勝の相手は、なんと国士館大。

慶大・佐々木HCのインタビュー中、壁を隔てて国士舘大の応援団の大歓声が何度も聞こえてきた。ハーフタイムに場内に入ると、驚愕の数字が電光掲示板に示されていた。51―34。準決勝もう1つのカードは、国士舘大がディフェンディング・チャンピオンである青学大から17点のリードを奪って折り返していた。

後半も流れは変わらず、国士舘大のオフェンスが火を噴く。青学大は国士舘大のゾーンを攻めあぐね、肝心の3Pに全く当たりが出ない。必死のディフェンスで徐々に追い上げるが、この試合の笛が終盤にかけて相当に青学大に味方していたことが大きかったように思う。試合時間残り2分で4点差とした中、#28辻の3Pは落ち、リバウンドは国士舘大。ここで#10吉満の3Pが決まり、勝負あった。

初の決勝進出に喜びを爆発させる国士舘大に対し、奥の青学大は呆然。
初の決勝進出に喜びを爆発させる国士舘大に対し、奥の青学大は呆然。

ここまで2回戦で法大、準々決勝で日大を連破してきた勢いは本物だった。そんな国士舘大の勝利は波乱とは言えないように思う。相手の青学大は、インカレに入ってから、ずっと調子が悪かったことからも、国士舘大の勝利は必然だったのかもしれない。

「法政や日大はナンバープレーにこだわりすぎ。守りやすかった。3Pの手ごたえは、昨日からタッチが良い」(#10吉満)

「青学はもっとガンガン来るかと思ったが、意外とそうでもなかった」(#4寺嶋)

青学大のある選手は、試合後に会場の外で「2部はシューティングゲームでオフェンスばっかりだ」とため息混じりに呟いていたが、負けは負け。これは所詮言い訳にしかならない。ただ、ディフェンスが重要となる1部とは違い、長年シーズンを下部で戦ってきたことが、国士舘大のこういった形での決勝進出の追い風になった部分はあるだろう。

国士舘大を引っ張る主将の#4寺嶋。流れが青学大に何度も傾くが、その都度強気のシュートでチームを奮い立たせた。
国士舘大を引っ張る主将の#4寺嶋。流れが青学大に何度も傾くが、その都度強気のシュートでチームを奮い立たせた。

それにしても、春のトーナメントではベスト32で3部の駒澤大敗退したチームが、なぜ大学バスケ最高の舞台に立てたのか。私は、リーグ開幕戦で慶大に大善戦したことがきっかけとなっていると思う。国士舘大・小倉監督が「進化した、というよりチームが固まってきた。リーグの頭で慶應とやって半信半疑だったのが、早稲田戦で固まった」と話していることからも、それが分かる。

ここで、あの開幕戦を少し振り返りたい。前半に、この日青学大相手に見せたようなオフェンスを伸び伸びと展開し、慶大から前半で大量リードを奪う。2Q途中には20点もの差がついた。3Q終了時には追いついたが、4Qに入ると再び離される。しかし残り30秒、7点ビハインドの状況からファールゲームを仕掛けると、これが奇跡の大成功。残り8秒、2点差となったところで#4鈴木がスローインをカットし、同点のレイアップとした。この時、スコアは114―114。延長戦にもつれ込んだ試合は、最後、どうにか慶大が国士舘大を振り切って勝利した。

この時オフェンスは成功したものの、9月上旬のせいか暑さにも苦しみ慶大のディフェンスは崩壊した。重くなった相手ディフェンスを前にやすやすと得点を重ねる国士舘大のここまでの成長を促したのはある意味、2部リーグ開幕戦で慶大が不甲斐ない状態だったからだ。

国士舘大のミラクルを演出したのは、3ヶ月前の慶大だったのだ。

いざ、運命のファイナルの舞台へ。

決勝のカードは慶大vs国士舘大。ともに今年、関東2部リーグに所属したチーム同士の対戦となった。入れ替え戦後にインカレの組み合わせが決まった時、この対戦を予想した人間が、果たしていただろうか。慶大にしては、準々決勝に続いて思わぬ相手との戦いとなった。1部3チームから奇跡的な金星を続けてきた国士舘大の方が、勢いでは上か。国士舘大の#4寺嶋や#10吉満は「プレッシャーは無い」と話すことからも、気負い無く勝ち上がってきたことが窺える。

しかし、繰り返しになる部分はあるが、慶大の状態は非常に良い。もちろん国士舘大は侮れないが、慶大はインカレのここまでの4試合で、1試合の平均得点は約98点。終盤は主力選手を下げて戦ったにも関わらず能力の高い選手を揃える専修大を準決勝という舞台で67点に抑えたディフェンスも光る。春に慶大の今年度のチームがスタートした段階で、打ち出された目標は「早慶戦勝利、1部昇格、インカレ制覇」だった。ここまでの道は綱渡りの連続、何度も危機に直面した。それでも自分達が設定した「3冠」達成に向け、ついにあと1勝となった。

主力のほとんどがベンチに下がる中、#4鈴木だけはコートに残って声を出し続けた。
主力のほとんどがベンチに下がる中、#4鈴木だけはコートに残って声を出し続けた。

慶大の選手達は口々に「青学とやりたい」と話していたし、佐々木HCも「2部同士の決勝じゃしっくり来ない」。だが、#16二ノ宮は「相手がどちらでもやることは変わらない」と話し、#11田上も「本当にどっちも強いんで、どっちもどっちな感じなんですけど、僕的には、国士舘がきたら、しっかりしたら勝てると思うんですけど、青学とやってもうちは相性がいいので、どっちでも自分たちのバスケができれば勝てるんじゃないかなと思いますけど」と、相手がどこだろうと、あくまで決勝で勝つことを念頭に置く。

慶大の決勝進出は2年ぶり。去年2部落ちを経験したが、この5年で3回目の決勝進出となり、充実期に入っていることを感じさせる。興味深いのは準決勝の得点差。4年前の日大戦は3点差、2年前の同じく日大戦は20点差だったのが、今回は32点に開いたことだ。

「2年前は公輔(竹内公輔、現在JBLアイシン所属)と酒井(酒井泰滋、#13酒井祐典の兄で現在JBL日立所属)のチームだったので、2人がどれだけ充実するかだったんだけど、今年はそういう意味で言うと戦力は上がってると思う。個々、例えば#7岩下と公輔を比べたら、そりゃ公輔は上手に決まってるけど、総合力というか、あいつ(#7岩下)がダメな時にどうやるか、ってのが出来るので、2年前よりはもうちょっと良い試合が出来そうな気がする(06年決勝、慶大は東海大に76―73で敗れた)。まだ若いチームなんだけどね」(佐々木HC)

「まだ若いチーム」――。だからこそ、まだ伸びしろがある。まずは目前の決勝に照準を合わせるが、チームは「そこから先」をも見据えている。

「今年勝てば3連勝(3連覇)いけると、学生にも言ってる。変な言い方だけど、#16二ノ宮をしのぐガードは出ないですよ、あと3年間。#16二ノ宮がいる限りは優勝狙えますよ。今年勝たないと、将来的に2連覇、3連覇することは無いです。1年生も何人か使いますけど、今日みたいにたくさんは使うわけにはいきません」(2回戦・早大戦後のインタビューで)

「兄が慶應で同じ2年のときに優勝しているので、そのジンクスに乗っかれれば、2連覇、3連覇となって兄ちゃん越えが出来る。そうなるように頑張りたいです。はい、上手く(コメントが)まとまった(笑)」(#13酒井、準決勝・専修大戦後の記者会見の締めくくりで)

慶大の黄金時代は、もう目前だ。

(2008年12月6日更新)

文・写真 羽原隆森
取材 羽原隆森、阪本梨紗子、金武幸宏