2012年12月に慶大が発表したPV「Shaping History, Shaping Tomorrow」を目にしたことはあるだろうか。この映像作品は慶大に留学を考えている世界の若者に向けて制作され、累計26万回以上再生されている。広告効果を大きく上げており、世界からの注目度も高い。ロンドンでのイベント「Experience Japan Exhibition」でも上映が行われ、好評を博したほか、大学のPVとしては異例のカンヌ国際広告祭でYoung Director Awardに最終ノミネート作品に選ばれた。
なぜ一大学のPVがこれほどの大きな反響を生むことができたのか。そして、どのような思いが込められているのだろうか。
ほかの職員からの提案を受け、PVの制作を決めた国際連携推進室の隅田さんは「今の若者にとって何か魅力的な素材で慶應をアピールしたかった」と話す。以前から国際化が重要な課題であった慶大では、パンフレットなどとは異なる、世界中どこからでも視聴可能なPVの制作に踏み切った。彼女の話す魅力的な素材がPVに色濃く反映されている。その素材とは、食べ物や観光地など世界的に人気の高い日本文化だ。大学のPVでありながらも、キャンパスの風景だけでなく、そういった日本文化を作品の中に多く取り入れられている。この点については大学の紹介が少ないという意見を始め賛否両論あったが、結果的にはそのような工夫がこの作品の認知度を上げたともいえる。
慶大が映像作品を制作するきっかけになったものに、文部科学省が推進する支援事業、グローバル30がある。グローバル30は「2020年までに30万人の留学生を」というスローガンを掲げ、2008年に誕生した。グローバル化が叫ばれて久しい現在の日本では、各大学がグローバル化に対応するため多様な国籍の学生の獲得を目指している。これを後押しする形で、現在慶大を含む国内13の大学を対象に、留学生の受け入れ体制の整備などの支援を行っている。
能力の高い留学生を受け入れるため、大学の国際競争力を高めるのと同時に、留学生と日本人学生が共に学べる環境を整備することで、国際的に活躍できる人材の育成が目的だ。
「大学にとって留学生を呼び込むことは学生の生活、視点を豊かにすることができる」と隅田さんは話す。現代社会において人々がグローバルな社会に接することなく生活するのは難しい。異なるバックグラウンドを持つ留学生と同じキャンパスで過ごす環境を作り上げることは、グローバル社会にも、対応できる人材の輩出につながるだろう。 (池田勇樹)