先を見据えた人材育成を
日吉キャンパス来往舎で先月31日、小泉信三記念講座「大学における学術研究の振興―現状と課題」が開催された。講師として招かれたのは、前慶應義塾長であり、現在日本学術振興会の理事長を務める安西祐一郎氏。日本の大学における学術研究の現状と課題
について、国際的な視点を交えて語った。
安西氏はまず、日本学術振興会の取り組みについて説明した。同振興会は、特に基礎研究の充実を重視し、科学研究費助成事業(科研費)や国際共同研究の支援、若手の特別研究員の育成を行うなど、世界で通用する人材の育成に貢献している。近年の成果として、青色発光ダイオードを発明した功績で今年度のノーベル物理学賞を受賞した赤﨑勇氏と天野浩氏の事例を紹介した。
次に、他の先進諸外国と比較して、日本の大学における学術研究の課題を指摘。トップレベルの論文数の減少、研究者の女性比率の低さ、大学教員の年齢の逆ピラミッド構造などを挙げた。また、大学教育全体の現状として、留学生の受け入れ数、派遣数が先進諸外国と比べて低く、多様性を欠いていることを強調した。
こうした状況を踏まえて、安西氏は「日本の大学教育は曲がり角に差し掛かっている」と話した。今後の国際競争の中で日本が先進国として生き残るためには、日本の大学教育の見直しが必要になる。具体的には、留学生の比率、研究と教育予算や環境などを、世界規模で比べて見劣りしないように、水準を高めていくことが求められるという。
「日本が学術のレベルを維持できなくなったら国際競争で生き残るのは困難だ」と話した安西氏。社会が一体となり、危機感をもって日本の学術の推進に取り組んでいくべきだと持論を展開した。
今回の講演会で安西氏は、日本の大学の現状について厳しい視点で分析をし、今後の進むべき針路を示した。大学における研究教育の改革はすぐに成果が出るものではないとした上で、「長期的な視野をもって、10年、20年先を見据えた人材育成を担うべき」と力強く語り、講演を締めくくった。