11/30(日) 帝京大学グラウンド(東京都日野市)
12:15 Kick off ● 慶應義塾大学C 12-46 帝京大学C (練習試合)
14:00 Kick off ○ 慶應義塾大学B 21-18 帝京大学B (関東大学ジュニア選手権決勝トーナメント)
「38.25」
会場に設置された、スポーツタイマーに一瞬目をやる。
ロスタイム含め、後半の残り時間もあと3~4分程度。14-18。慶應義塾大学Bチーム4点のビハインド。
帝京陣内で獲得した、マイボールラインアウト。慶應、まさにラストチャンス。
グラウンドに響く、サインの声。しっかり確保。展開。そして突破。
大男の密集をすり抜けたFL大口哲広(環4)が、SH藤代尚彦(環3)のパスを受け、帝京大学側のインゴールに体ごと飛び込む――。
「いやぁ、本当に感動しました…」
林雅人監督が、万感の思いでジュニアの帝京大学B戦を振り返る。
試合終了後、ベンチの前に整列し「ありがとうございました」の挨拶を終えるやいなや、堰(せき)を切ったように、試合に出場した慶應の選手たちの目から涙が溢れ出す。
部員同士熱く抱擁を交わす者、ユニフォームに顔を埋め、ひとり嗚咽(おえつ)する者。形態はさまざま、涙の「意味」も人それぞれ。
ただひとつ言えること。
決して、眼前の試合に負けたわけではない。勝ったのだけど、何故だか涙が止まらないのだ。
見ていて、こちらまで胸が熱くなる――。
「主将冥利(みょうり)に尽きますね」
今季のジュニア選手権、ベンチから大声を張り上げ戦況を見つめ続けるSH花崎亮主将も、試合後「これまでやって来た事が間違いではなかった、と胸を張って言える。嬉しい限りです」(花崎)と、ジュニアの選手たちの目を見張る成長ぶりに、喜びを隠せない様子であった。
まさか、まさか、このような結末が待っていようとは――。
「後半の残り時間がたとえ少なくなっても、勝てるチャンスがあるっていうのは経験的に知っている」と語る林監督ですら、このエンディングには少なからず驚きを隠せない様子だった。
「スポーツは筋書きのないドラマ」とはよく言ったものだが、今回のジュニアの試合もまさにその類であろう(後半ロスタイムにトライ奪取で4点差をひっくり返すなんて、話が出来すぎている)。
後半38分、帝京陣内で獲得した慶應ボールのラインアウトのシーンを、もう一度振り返ってみたい。
後半30分過ぎから続いた、自陣深くでの帝京の重たいスクラムを慶應は粘りのディフェンスで何とか凌ぎ、流れの中でボールを奪うと今度はSO川崎大造(環4)のキックで大きく陣地を挽回。風に乗ったボールは、相手FBの頭上をふわりと越えていく。
これを好機と見たのが、LO立石真也(総2)。
猛然とダッシュし、相手にプレッシャーをかけに行く。彼の執拗なチェイスが効いたのか、相手FBは肝心のキックをミス。これがダイレクトタッチとなり、帝京陣内でのマイボールラインアウト獲得と相成った。
「慶應の強いときって、ああいう形ですよね。ディフェンスで粘ってターンオーバーしたボールを大きく蹴って。あのシーンも立石(真也)がひたむきに追ったお陰でダイレクトタッチになった。要するに、ラグビーに無駄なことなんて、何一つないんですよ」(林監督)
指揮官の言葉を具現するような、立石の鋭敏かつ献身的な動き。
彼の好判断が、結果、後半ロスタイムの大口のトライに繋がった。
「最後まで絶対に諦めない、精神的にタフになろうって皆で言い合いながら厳しい練習にも耐えてきた。まさに、普段から取り組んできたことが(後半ロスタイムの自らのトライの瞬間)出たのかな」(FL大口哲広)
「本当に嬉しいです」
殊勲の大口の飾らない言葉が、じっくりじんわり、胸に沁み入る。
ただ、試合全体を通して見ると、決して手放しで褒められた内容ではなかったのも事実だ。
特に前半。慶應はいつものごとく、意図的に風下を選択。前半は最小失点で凌いで、後半勝負という戦略を立て試合に臨んだまでは良かったが、試合開始わずか5分足らずで、慶應の「悪癖」が早くも顔をのぞかせる。
脆弱なセットプレー(特にラインアウト)である。
今季のジュニア選手権リーグ戦初戦、同じく帝京大学
Bとの対戦(9/13、●25-33)の際も、セットプレーの不安定さには目を覆うばかりだったのだが…。
「試合開始直後の、2つのラインアウトの選択がすごく悪かったんですね。1つ目(のラインアウト)にフェイクが2回入るのを彼らは選択した。しかも、これだけ風が強い中で長いボールを(放った)。2つ目(のラインアウト)も全く同じ選択。そもそも、最初は絶対に『直球』から入るべきで、フェイクというのは相手に守られたときに裏をかくためのもの。あの瞬間、早くも選手交代を決意したぐらいです(苦笑)」(林監督)
後半頭から、前半ラインアウトジャンパーを務めたLO石川顕成(環4)に代えて、LO三輪谷悟士(総1)を投入。もしかしたら、これが大学生活最後の試合出場になるかもしれない石川を前半のみで交代させるというのは何とも非情な選択に見えたが、「パフォーマンスの問題」(林監督)とあっては、最早反論の仕様がない。
結局、前半はセットプレーの不調も相俟って12点のビハインドで折り返す。
ただ前半、相手との蹴り合いを続ける中で、指揮官の目には徐々に相手の粗(あら)が見えてきていたという。「(帝京は)外が薄い」。風下の後半、「エリアをコントロールしながらボールを持ってワイドに攻めよう」(林監督)。ノックアウトステージ。負けたら終わりの状況下、悔いの残らぬよう思いっきり自分たちのラグビーをしようじゃないか。ここから、「モーションラグビー」の本領発揮である。
勝負の後半。開始後すぐに、WTB三木貴史(経2)・金本智弘(理2)の左右両ウイングがポンポンとトライを奪取、直後のコンバージョンキックもFB和田拓(法政2)が2つとも落ち着いて決め、12-14と早くも逆転に成功。「(帝京は)外が薄い」という指揮官の指摘は、両ウイングのトライとなって結実する。
しかし、ここから再び慶應に我慢の時間が訪れる。
FWの「重量」を生かした、近場の攻め。フェイズを重ね、慶應ディフェンスを消耗させて反則を誘う作戦は実に有効で、隙を突き一気に大外に振って、「あわやトライ」というシーンも幾度となく生まれた。
だが、帝京の側にも焦りがあったのか、例えば慶應に反則があった際も、無理にトライを狙いに行こうとせずペナルティゴール(PG)で確実に得点を重ねる方法をチョイスした。
「(帝京がショットを刻んできたことに関して)逆に良かったですね。絶えず一発のトライで逆転できるという範囲で収まっていたので。向こうも、必死になって『1点でもリードしなきゃいけない』という意識でPGを蹴っていたような気がします」(林監督)
一時は18-14と再逆転されるも、先述の通り、後半ロスタイムの大口のトライで再々逆転に成功。見事シーソーゲームを制したわけだが、結局のところ、「試合の入りに失敗した」(CTB濱本将人)ことが、最後まで落ち着かない試合の原因になったと言えなくもない。
「チーム全体に活力を与える勝利」(林監督)。それはもう、疑いようのない事実。でも、「勝って甲の緒を締めよ」。試合運びの部分の稚拙、一刻も早い修正を期待したい。
「今週(ジュニアの)選手たちには、こう言い続けたんです。決勝トーナメントに入ったら、もう細かい技術論云々じゃないよ、試合を支配するのは『熱』しかないよ、と」(林雅人監督)
自らを「メンタル派」と語る漢の、面目躍如たる言葉――。
「ラグビーやってて、よかったなぁって」。コーチ業を20年近く続けていながら、何の躊躇いもなくこういったストレートな感情を取材者の前で吐露できる。まったくもって、稀有(けう)な才能だと思う。
さて、今回の「グレード1」(決勝トーナメント)・帝京大学B戦に勝利したことで、慶應義塾大学Bは12/13に秩父宮ラグビー場で行われる早稲田大学Bとの「決勝戦」に臨む機会を得た。
「早稲田Bにチャレンジできることが、何より嬉しい」(CTB濱本将人)
「(早稲田Bに勝利して)優勝を目指します」(FL大口哲広)
目先の「グレード1」決勝。ここでの早稲田Bとの対決は、ジュニアの選手たちにとって何よりのモチベーションとなろう。リーグ戦対戦時(10/5、●20-24)に得ることが出来なかった「勝利」を、今後こそは是非とも手に入れてもらいたい。
勿論、その先には、大学選手権(12/20~)も待っている。
「大学選手権の日程は非常にタイト。選手層の厚さが鍵を握ると言えます」(SH花崎亮主将)。
前回の東海大学戦(○32-12)のリポート内でも触れた。
このジュニアチームの戦略の機軸は、ディフェンス→(ショート)カウンター。
相手が慶應陣内深くまで攻め込んできた時には、リトリートしてしっかり相手を受け止める、「低く鋭いタックル」を基本とした粘り強いディフェンスで耐える(そして、相手のミスを待つ)。
だが、チームの「重心」を下げ過ぎることなく、陣形をコンパクトに保ちながら、隙あらばキックなどを上手く活用して一気呵成に(ショート)カウンターに打って出る。そのプロセスで、例え相手にボールが渡っても、今度はあくなきチェイシングで相手を混乱に貶(おとし)める――。
今度の早稲田B戦も、今季のBチームの集大成として、この戦略を最後まで貫き通して欲しい(「勝利」という結果が伴えば、なおのこと良し)。そして、大学選手権に向かうチームに良い流れを呼び込みたい。
(2008年12月3日更新)
取材 安藤 貴文