私たち大学生は、講義を受けたり、友達と談笑したり、時にはサークル活動をしたりすることを目的として、何気なく大学のキャンパスに通っている。しかし、周囲を注意して見てみると、そこにはさまざまな人やものが存在していることに気付く。この特集では、塾生やこの新聞を受け取ってくれたあなたにぜひ知っておいてもらいたい「慶應義塾の知られざる魅力」を余すところなく伝えている。
*****
人々の交流の場を目指して
日吉キャンパスの並木道を上ってメディアセンターを過ぎると、左手にひときわ目立つ大きな建物がその姿をあらわす。言わずとしれた「来往舎」である。美しいガラスの壁に覆われたその建物の中では、いったい何が行われているのだろうか。塾生の多くが知らない来往舎の魅力に迫る。
来往舎は、2001年日吉を学(まなび)の中心地に、という目的のもとに設立された7階建ての大きな建物だ。「生き生きとした活動が豊かな環境との調和しながら繰り広げられる空間」を設立時のテーマとして掲げており、自然エネルギーを活用する構造も現代的だ。
1・2階は会議室やシンポジウムスペース、3階から7階には学部所属の専任教員の個人研究室などが収容されている。シンポジウムスペースでは随時講演会や研究発表会などが行われており、参加したことのある学生も多いだろう。しかし、3階から上は基本的に学生に開放されていない。
今回は学生も利用できる施設についても紹介しよう。1階のイベントテラス、2階のギャラリーは、学生が学生部に企画を持ち込み、許可を得て利用することができる。
実際の利用者としてあがったのがHAPP(日吉行事企画委員会)という大学主催の企画団体だ。キャンパスの施設を使った新入生歓迎行事企画や、教員と学生の合同企画などを公募・実施している。学生なら誰でも応募でき、HAPPで企画が採択されると上限25万円までの補助金をもらえるシステムもある(平成26年度)。今秋の公募企画では、学生団体の演劇研究会による演劇が11月中旬に開催される。
比較的新しい施設ということもあり、ギャラリーやイベントテラスの年間の利用件数はあまり多くはない。こうした現状に対して職員の日水さんは「利用できる空間があるのに、うまく活用されていない印象がある。学生と教職員または地域住民との交流の場としても、さまざまな成果の発信地として活用していただきたい」と話す。
「来往舎」という名前は、慶應義塾の創設者である福澤諭吉の漢詩の言葉に由来する。『社友は平生を温め、来往軽く、一堂の談笑は清い』―慶應義塾の社中の人びとは日頃から気軽に集まり談笑を楽しんでいる、といった意味である。教員と学生の壁を超え、学を発信する場として利用されてこそ、「来往舎」の本来の姿といえるのかもしれない。
せっかくの立派な施設が使えるのも、時間に余裕があるのも、学生である今のうちだけだ。普段、何気なく往来しているキャンパスには様々な可能性が潜んでいる。ときには足を止め、その可能性を試してみるのもいいだろう。 (上山理紗子)