関連法案の内容に注目集まる
先月1日、政府は新しい安全保障制の整備のための基本方針を閣議決定した。近年は軍事技術の発展や大量破壊兵器の拡散、国際的なテロの増加に加え、中国の台頭などに伴う東アジア情勢の不安定化が大きな懸念材料となってきている。安倍内閣は、変化する国際情勢と安全保障環境に対応し、「切れ目のない安全保障法制」の整備を推進する構えだ。しかし、これに付随する「集団的自衛権」問題の加熱など、摩擦も多く生じている。 (和田啓佑)
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先月1日、安倍内閣は新しい安全保障制の整備のための基本方針を閣議決定した。政府は方針策定の理由として、世界のパワーバランスの変化、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散、国際テロの増加といった安全保障上の危険を挙げ、抑止力の強化、問題対応の迅速化を進める予定だ。
政府によると、今回の決定の狙いは主に三つある。一つ目は、離島周辺地域などを武力攻撃なしに侵害される、いわゆるグレーゾーン事態への対処。二つ目は、国際社会、特にアジア太平洋地域の平和と安定への貢献。そして三つ目は、憲法9条下で許容される自衛措置の部分的な範囲変更だ。
昨今では技術の発展とグローバル化によって、地理的に遠い場所で発生した問題でも、日本に深刻な障害を与える可能性がある。また、中国・韓国・北朝鮮をはじめとする東アジア地域の情勢が不安定化していることもあり、脅威の未然防止と問題対処の迅速化が重要性を増してきている。政府方針はこれを達成すべく打ち出されたものだ。しかし同時に、憲法9条の政府解釈をめぐり議論が加熱している現状がある。特に、「集団的自衛権の行使容認」問題については識者の間でも意見が錯綜している状態だ。
従来、政府は日本の安全保障に際し、「個別的自衛権の行使は認められるが、集団的自衛権の行使は憲法上許されない」との見解を貫いてきた。しかし、世間では今回の閣議決定によって「政府が今までの解釈を変更し、集団的自衛権の容認に踏み切った」と見る動きが広がりつつある。
この見方に対し、慶大法学部の駒村圭吾教授は「実際のところ、今回の閣議決定は個別的自衛権の延長でどこまでできるかを明らかにしたのみで、その明確化された内容が『集団的自衛権』と呼ばれているに過ぎない。閣議決定のテキストに限って言えば、実質的には従来の解釈と変わりはない」と指摘する。一方で、「『集団的自衛権行使容認』という表現が大々的にメディアで報道され、その表現自体が半ば一人歩きしたことで、国民感情に『変わった』という意識が生まれた。その点は、安倍政権の政治的成果物であろう」と政治的環境の変化に懸念を募らせる。
また、慶大法学部の宮岡勲教授は安全保障の見地から「中国の台頭など、東アジアのパワーバランスが変化していることを鑑みると、今後の抑止の強化は必要」と閣議決定を支持。さらに「憲法の平和主義の範囲内であれば、過去の政府見解を政府が見直すことは可能。本来であれば憲法改正が理想的だが、政治の世界では実現可能性が重要であることも理解できる」と述べた。ただし、「実現可能性を重視するあまり立憲主義を軽視するような発言が出るのは残念。加えて、安倍首相の『戦後レジームからの脱却』といったスローガンや、歴史問題をめぐる発言など、国民の一部や中国・韓国の感情を必要以上に逆なでしている現状は遺憾に思う」と話した。
両教授ともに、閣議決定そのものよりも、今後検討される関連法案の内容が具体的にどのようになるのかが重要であると注意を促した。その上で、「学生はまずは閣議決定のテキストをきちんと読む責務がある。周囲のムードに流されず、理性的・知的にふるまってほしい」と駒村教授は述べた。