職人によって息が吹き込まれる
職人によって息が吹き込まれる

そよかぜが奏でる伝統の音色

夏が近づくと聞こえてくる涼やかな音。私たちに夏の訪れを感じさせてくれる風鈴だ。今回は、創業100年を超える篠原風鈴本舗の風鈴職人、大槻賢一さんがそんな風鈴に息づく職人技について話す。

「小学校5年生の時に風鈴作り体験をして以来、風鈴に魅せられてこの世界に入りました」と大槻さん。第8回東京の伝統的工業品チャレンジ大賞で入賞するなど、活躍を見せる。

篠原風鈴本舗で作られている風鈴は「江戸風鈴」と呼ばれ、300年間変わらない独自の製法を受け継いでいる。昔ながらの風鈴作りの技術を伝承する数少ない工場だ。海外で大量生産が行われる中、江戸風鈴はひとつひとつ職人の手作りにこだわっている。そのため、一日で作れる江戸風鈴は200個ほど。冬の間も夏の繁忙期のために風鈴を作り続けなくてはならない。

江戸風鈴の工程は大きく分けて成型、絵付けに分けられる。風鈴作りは、溶けたガラスを竿に巻き付け膨らませた、口玉と呼ばれる部分を作るところから始まる。それから口玉の上に本体となるガラスをもう一度巻き付けて、形を整えながら針金で紐を通す穴を開ける。最後に息をさらに入れることで風鈴本体の形が作られる。

次に風鈴の鳴り口の成型に移る。鳴り口は砥石という道具を加工したものを使い切り落とし、磨いていく。この工程こそが、江戸風鈴の大きな特徴だ。鳴り口の部分をギザギザにすることで、涼しげで優しい音色を奏でる江戸風鈴ができる。

繊細な絵柄が描かれる
繊細な絵柄が描かれる

絵付けにも江戸風鈴ならではの手法がある。7、8色を調合した顔料を使って、繊細な柄を刷り込み刷毛で風鈴の内側に描く。簡単な絵柄だと2、3日ほどで出来上がるが、難しいものだと数週間かかる。柄は300年来の伝統的なものから、キャラクターを用いたものまでさまさまだ。毎年新しいアイディアを生み出し新作を製作する。

この工程すべてを作れる風鈴職人になるには、丸10年かかる。風鈴の元となる口玉を作れるようになるのにもおよそ3年。そのため、篠原風鈴本舗には2つの工程すべてできる職人は4人のみしかいない。一人前の職人になるには長い鍛錬が必要だ。

夏の風物詩と思われがちな風鈴だが、実は古くから魔よけとして用いられてきた。もし割れてしまっても、身代りになってくれたのだと考えるのだという。それゆえ、一年中飾って置くのが良い。

江戸風鈴について大槻さんは「毎日が発見であり勉強。いつか初期の風鈴の形を再現したい」とさらなる意欲を覗かせる。そよ風になびく透き通ったガラスを見つめ、伝統が奏でる音色を楽しんではいかかだろうか。  (岩田なな子)