南シナ海領有権問題
大きな枠で捉えるのが鍵
5月から、中国とベトナム間における南シナ海の領有権を巡った衝突が問題となっている。
領有権問題が生じた背景には、天然資源の確保が一つ挙げられる。南シナ海は石油や天然ガスといった資源が豊富な海域だ。中国は90年代半ばに石油の純輸入国となり、資源エネルギーに依存した経済発展の維持を試みてきた。そこで中国は、南シナ海の沿岸諸国の海岸線までを含む九段線という境界線を独自にひき、その内側を領海だと対外的に主張するようになったのである。
事態の改善のために、中国とASEANが合意を重視した「南シナ海行動宣言」を2002年に出したことはあった。しかし、昨今の中国の態度は昨今特に顕在化しており、行動宣言よりも法的拘束力のある行動規範を作ろうとする動きも出てきている。
今回の衝突をより深く理解するには「中越二国間の問題としてではなく、もっと大きな枠組みで捉えるべきだ」と法学部准教授の小嶋華津子氏は指摘する。今回の問題の根底には既存の海洋秩序を力で変更することを躊躇しない中国の大国意識の高まりがあり、中越間のみで発生している問題として捉えられないからだ。
中国が南シナ海域にて強硬な外交を展開している理由は主に3つだ。一つは、実利的な目的のためである。資源を得るために必要な海上の交通路を自国の管理下に置きたいという狙いがある。
二つ目に、相対的に衰退しつつあるアメリカから中国を中心とする秩序への変更を目指す側面がある。5月に上海にて開催されたアジア信頼醸成措置会議首脳会合で習近平国家主席は、「アジアの安全はアジアが守る」という新アジア安全保障観を打ち出し、従来のアメリカ中心の安全保障秩序への対抗姿勢を鮮明にした。
三つ目として、中国国内で海軍と空軍の発言力が近年強まっている点が挙げられる。中国は海洋国家になることを目指しており、そのためには海と空の安全保障が重要になる。それにともない近年、海軍・空軍関係者がメディア等で積極的に強硬論を展開するようになった。一方、習近平国家主席の権力基盤は弱く、国の行く末を左右する軍と緊密な関係を築くべく、慎重にことを運ばざるをえない。そのため、一部の軍の狙いが国家の対外行動に影響を与えている可能性がある。
今後の展開として、小嶋氏は「楽観的な見方はできない」と話す。アメリカを中心とした海洋秩序の変更が中国の政策の目標である限り、大国意識を高めた中国は東南アジア諸国に対し強硬的な姿勢で臨むだろう。力を用いた秩序の変更を抑止しつつ、中国の大国化を踏まえたウィン・ウィンの包括的安全保障の枠組みを多国間で協議していかねばならない。
ロシア クリミア併合
複雑化招く大国の思惑
ウクライナでは、昨年11月から今年2月に親欧米派住民により、EU連合協定の調印を取りやめたヤヌコーヴィチ大統領に対する抗議行動が行われた(ユーロ・マイダン)。ロシアによるクリミアの編入、及びウクライナ東部での騒乱が起きるなど、現在でも混乱は続いている。ここでは3月に行われたロシアによるクリミアの編入に注目したい。
なぜロシアはクリミアを自国の領土としたかったのか。理由は歴史、民族、政治、軍事の側面から考えられる。クリミアはロシア人の占める割合が最も高い地域だ。1954年に、フルシチョフ第一書記がロシアとウクライナの友好の証としてウクライナに移管して以来、クリミアはなし崩し的にウクライナ領として定着した。そのため、クリミアは奪還すべき土地だという認識がロシア側にはある。
「プーチン大統領自身のロシアでの人気を取り戻すことと、旧ソ連圏のロシアや親ロシア的な政権に対する反動を押さえつける意味もあったのではないか」と総合政策学部准教授の廣瀬陽子氏は話す。ヤヌコーヴィチ大統領は極端に親欧米的な人物でなかったため、彼の失脚はウクライナにおけるプーチンの敗北を意味した。ロシア国民からの人気が低下することを危惧し、防止策として新たな領土の獲得に踏み切った。また、民衆の抗議活動による国家転覆ができるという空気が旧ソ連で広まるのを恐れ、ほかの国家への見せしめもあったのではないかと考えられている。
軍事的には、NATOへの強い警戒心が原因としてある。ロシアは、欧米諸国がロシアを仮想敵国としているから、冷戦後もNATOが存在していると考えている。そのため、先にクリミアを取り上げ、NATOがロシアの近くに基地を構えられないようにする戦略的意味合いもあった。
ロシアはついに編入に踏み切ったわけだが、この過程には、数多くの違法行為が見られた。その一つとしてロシア側はクリミアに独立を宣言させ、それを国家として承認した。その上で、互いに主権国家として編入に合意したが、クリミアが属していたウクライナが独立を承認していない時点で非合法的だ。
では今後、ウクライナとロシアの関係はどうなるか。ウクライナはクリミアの奪還を目指している。しかし欧州諸国はロシアとの間に波風を絶たせないため、クリミアに対するロシアの主張を事実上黙認しつつある。ウクライナ本土に関しては、フィンランドのようにロシア側にも欧州側にもつかず、完全に中立の立場をとるべきという声が欧州から上がっている。廣瀬氏もそれが理想だと話す。フィンランドはロシアに占領されていた時、欧州側につかないことを条件に独立を承認してもらい、先進諸国へと上り詰めた。しかし、現ウクライナ政権はこれ以上のロシアからの干渉を避けるべく、EUへの加盟を切望している。果たしてどちらにつくのか、または中立的な立場を確立できるのか。ウクライナの動向が今後の展開を大きく左右することになる。 (阿久津花奈)