先月8日、3Dプリンタを用いて自作の銃を作った疑いで大学職員が逮捕される事件が起きた。この事件を機に、3Dプリンタは果たして本当に安全な機械なのか、そもそも仕組みはどうなっているのかと疑問に思った人はいないだろうか。
3Dプリンタには現在、世界から注目が集まっている。デジタル上の設計図をもとに、材料となる物質を機械に入れれば3次元の立体を作ることが可能だ。自由な大きさで造形ができる点や3Dスキャナーを用いれば物体の形を簡単にコピーができる長所を生かし、義手や義足が作られるなど医療にも役立てられる。
この本の著者である慶大環境情報学部准教授の田中浩也氏は3Dプリンタをはじめとする「ネットワーク物作り」の研究者である。3Dプリンタはデジタル上のデータをさまざまな物質に変えることも、逆に、さまざまな物質をデジタルデータに変えることもできる。田中氏はこの物質と情報の相互変換による物作りをデジタルファブリケーションと呼び、物作りの新たな可能性を追求する。
SFCのメディアセンターに昨年4月、3Dプリンタを導入したのが田中氏である。学生がどのようにこの機械を活用するのかを見る目的があったのだという。著者は「3Dプリンタでどのような物が作れるのか考え、頭の中のアイデアを形にしてほしい」とこの本のなかで述べている。
大量消費社会の見直しへ
3Dプリンタを使いこなす人が増えていけば、現在の大量消費社会を将来的に変えるきっかけになるかもしれない。これまで一部の生産者のみが物を作り、消費者はただ利用していたため、知識がなくても高度な製品を使うことができる状態だった。しかし3Dプリンタによって壊れた部品等を自ら修理や改良をすることができれば、物を身近に感じ、仕組み等を理解することになるだろう。愛着を持って物を使うことに繋がる。さらに、物の作り方が広く共有されれば製品をより良くする発想が生まれるかもしれない。
いまだ発展途中の技術であるがゆえに、我々は3Dプリンタに過度な不安と期待を抱く。まずは3Dプリンタの仕組みを知り、実物に触れてみることでどのような可能性があるのか確かめる必要がある。3Dプリンタにはまだ課題がたくさんあり、さらなる普及にはしばらく時間がかかるだろう。それまでに3Dプリンタがどうしたら安全な使い方をされるか考えなくてはならない。 (長屋文太)