「何かしたい」という思いを胸に

アカペラを通じて被災地の人々と繋がる活動をしている団体がある。一般社団法人Always With Smile(以下AWS)だ。大学のアカペラサークルに所属する学生を中心に定期的に被災地に赴き、現地の人と一緒に歌うという取り組みを行っている。現在、参加者は学生に限らず社会人も含め100人を超える。

AWSは東日本大震災を機に発足した。震災後、前から親交があった仲間が集まり、被災地に物資を送っていた。その支援を続けていく中で、皆で一生懸命一つのことをする状況が寂しさを生まないことに気づき、同じことを被災地でもやろうという決断に至った。「道具を使わず自分たちにできることが、一緒にアカペラを歌うことだった」とスタッフの田中宏美さんは語る。

現在AWSでは、月に一度宮城県気仙沼市や男鹿郡女川町を訪れ、仮設住宅や中学校などで、現地の人々とアカペラを通じて交流を深めている。この活動は被災地の人に対して何かしてあげようといういわゆる「ボランティア」ではない。皆で一緒に楽しんでいるもので、まるで親戚のおじさんやおばさんに会いに行く感覚だという。行った先々で出会う人と歌って、歌をきっかけとして仲良くなりたいという思いが参加者の根底にある。

アカペラは自分自身歌いながら人の声を聞くことでハーモニーを作るので、お互い歩み寄り、その距離間を見極めないと難しいものだとスタッフの吉村美絵さんは話す。しかし、お互いに目を合わせながら歌うことで思いが伝わりやすく、距離が縮まり信頼関係を築くことができるという。一緒に歌った後に「また来てね」と被災地の人に言われることもあるそうだ。そのためAWSの活動に一度参加すると、魅力を感じて活動を続ける人が多いという。またAWSでは活動を30年続けるという目標がある。目標が長期的であるほど、自分たちのできる範囲で活動を続けていくことが求められる。一度活動を離れることがあっても、30年の間で戻ってくるタイミングがある。AWSは学生に限らず、社会人など誰でも気軽に参加できる。

自分の何かしたいという思いを実現できる場でもある。被災地に限らず、各地の老人ホームを訪問しアカペラを届ける活動もあり、これは参加者の希望から始まったものだそうだ。一人ひとりがそれぞれ何かやりたいと思っても、一人だけでは成しえないことは多い。しかし参加することで自分のやりたいことをできる環境がAWSにはある。

被災地の現状は節目にならないとニュースなどで話題にならない。復興活動が行われているとはいえ、心に傷を負った人はいる。毎月被災地に赴き、被災地から伝えていき、忘れさせないようにしたいと吉村さんは語る。またどんな活動をすることになろうと出会う先々での人々のことを常に考え、繋がりを深めていきたいという。アカペラを通じ、同じ時間を共に過ごしながら人々と繋がるという新しい形の活動。人々に寄り添いながらAWSは歩み続けていく。 (武中萌)