10月29日、『創立150年記念パーフェクトガイド 慶應義塾』が発売された。巻頭を飾るのは、各界で活躍する錚々たる塾員の顔ぶれ。150年という長い歴史は、この大学が輩出してきた数多くの先人たちの活躍無しに語ることはできないだろう。
同書を編集した株式会社講談社エディトリアルの代表取締役兼社長を務める土門康男氏(昭和44年経済学部卒)もまた、そんな先人の一人である。卒業年は、偶然にも安西祐一郎塾長と同じだ。
「大学時代は楽しかったね。学業というよりはクラブ活動のほうが楽しかった」。土門氏は迷うことなくそう答えた。当時所属していた慶應ペンクラブの仲間とは、ガリ版印刷が一般的だったその当時から、現在に至るまでずっと関係が続いているという。
社会に出た後の友人関係は、必ずしも学生時代と同様にはいかない。勤務先が同業、あるいは競合関係にあったり。またそれぞれが自分のことで手いっぱい。だが50代になると仕事上のしがらみを乗り越え、友人関係に再び面白みが増すのだという。今月末にはゼミ(白井厚研究会)のOB・OG会も控えている。「大学時代の友達だから、もう40年以上の付き合い。竹馬の友とは言えないだろうけど」と土門氏は照れたように笑う。
『創立150年記念パーフェクトガイド 慶應義塾』の出版計画と同時に、出版社社長という土門氏の立場でしか叶わない大学との関係が始まったは昨年の暮れ。慶大関係者から、「20~30代の人に福澤先生と慶大の業績のようなものを伝える書籍を出せないか」という依頼が舞い込んだのである。 「普段、足元の(自分が在学する)大学について改めて知ろうと思わないでしょ。入学しちゃうと」
それにしてもこの書籍、パーフェクトを名に呈すだけあって、浅きも深きも網羅した本当に幅広い内容となっている。塾員インタビュー、福澤諭吉先生の人物像、縁ある美術品、さらには各キャンパス周辺の飲食店案内まで。在学時代こそ『学問のすゝめ』を読まなかったという土門氏も、パーフェクトガイドに書かれている福澤先生の素顔については可笑しそうに話す。子沢山で愛妻家、散歩好きの大酒飲み。知られざる福澤諭吉像が浮かび上がる。
慶大が掲げる「独立自尊」は、己を大切にして初めて他人を大切にできるという意味でもある。インタビューの最後、「だからこそ、大学時代には自分のやりたいことを懸命に探しなさい」と土門氏は言った。彼が作ったのは、先人たちの過去を辿るガイドブックだろうか。しかし、それを片手に最後に辿りつくのは、我々の先にある未来に違いない。
(谷田貝友貴)