横浜初等部が今年4月で設立から1年を迎える。同校は慶應義塾の2校目の小学校として昨年開設された。今年度の入学試験では定員108人に対して、1257人が同校を志願しており人気が続く。慶應義塾の一貫教育を強化するため開設された同校では、独立自尊の精神を体現した先導者の育成を目指して特色ある教育が行われている。 (向井美月)
横浜初等部は昨年4月に横浜市青葉区に開設された慶應義塾が運営する小学校。慶應義塾創立150年記念事業のひとつとして構想され、「体験教育、自己挑戦教育、言葉の力の教育」を柱に教育を展開する。現在、1年生、2年生ともに108人ずつ在籍している。
昨年1年の運営について山内慶太横浜初等部長は、教育の成果というものは短期間で捉えるものではなく、20年30年と長いスパンで考える必要があるとした。その上で、「生徒たちは授業をはじめ、給食の時間や放課後など学校生活をそれぞれの形で楽しんでいる。生徒たちはみんな学校が大好きで順調に滑り出したと言っていい」と語る。
同校では将来の社会の先導者を育てることをめざし、特色ある授業が行われる。「福澤先生の時間」という授業では福澤諭吉やその門下生の思想や生き方を学ぶ。ほかにも家庭とそれを取り巻く環境など身近な題材について、教科を超えた多角的な視点から見る「生き方科」という授業もある。一人一人が社会の構成者であり、「公」を意識するようになることを期待している。
また広さ約3万8千㎡の広い敷地には2つの校庭とビオトープがある。図書館、講堂、食堂、和室や書道室などを有する広大な校舎は、生徒たちの伸びやかな学校生活を支えている。
同校の設立には慶應義塾の初等教育をさらに充実させ一貫校教育の幹を太くする目的があった。戦後、大学は各学部の定員増と学部増設によって定員が増えた一方、慶應義塾の一貫校の中で小学校は幼稚舎1校のみだったからだ。
そのため教育における連続性や一貫性を高め、進学するたびに生じる教育の継ぎ目が小さくなるような教育の整備を進める。横浜初等部の卒業生は原則として慶應義塾の中高一貫校である湘南藤沢中・高等部へ進学する。生徒たちを6年間だけでなく、12年という長い時間にわたって見守ることができる。英語の授業において、横浜初等部の教師と湘南藤沢中・高等部の教師がカリキュラムの検討や実際の授業を共同で行うなど、その連携は強い。
横浜初等部の入学試験の倍率は11倍を超える。「人気が集中することを望ましい現象とは考えていない」と山内部長は話す。「家庭には家庭の方針、家風があり、学校にも学校の理念、気風がある。特に人間としての基礎を育む初等教育では、それぞれの家庭の方針にあった学校を選ぶことが大切」であると言う。
これまで同校には、一学年しか生徒がいなかった。山内部長は「新入生を迎えることで、はじめての下級生を持った新2年生たちにもさまざまな変化と成長が見られるでしょう。これから入学するすべての生徒によって『横浜初等部らしさ』は作られていく」と述べた。