投票箱の半分が高齢者票に

今年の2月9日に東京都知事選挙が行われた。しばらく国政選挙はないが、来年の4月には統一地方選挙が行われる。大学生になると今までは手の届かないように思えた政治的問題に投票という形で関与することができるようになる。しかし、一方で日本では政治参加について顕著になりつつある問題がある。それが「シルバー民主主義」だ。

シルバー民主主義とは、政策構成に高齢者の意向が強く反映されることを指す。法学部政治学科の小林良彰教授によるとその背景には3つの不均衡があるという。

1つ目は「年齢構成の不均衡」。2013年の段階で60歳以上の高齢者が有権者の39・6%を占めており、これが2040年には50%を超える。対する20代の若年層は2040年には10%に過ぎない。少子高齢化が生んだ問題で高齢者の数が増えればその意見が政策に反映されやすくなる。

2つ目は「年齢による投票率の不均衡」だ。2012年に行われた第46回衆議院議員総選挙では、若年層の投票率は38%、それに対する高齢者の投票率は75%と顕著な差が出ている。若年層の投票率が低いのは世界共通だ。しかし日本は特に際立っており、このままいくと2020年には全国で投票箱の中身の半分が高齢者の投票になると言われている。

そして3つ目が「選挙における地域間の定数の不均衡」だ。2010年に行われた第22回参議院議員通常選挙では神奈川県選挙区と鳥取県選挙区で1票に5倍の格差があった。また1票が重いのは若年層の多い都市部ではなく地方のため、高齢者の存在が数以上に大きくなっている。

ではシルバー民主主義が進むと何が問題なのだろうか。最も大きな問題は高齢者の不利益になる主張を候補者がしにくくなることだ。例えば社会保障費と財政の問題。税収は20年前と比べて15兆円減っている一方で歳出は25兆円ほど増えている。他の支出の額はほとんど変わっていないため、増えている社会保障費と減った税収を借金で賄っている状態だ。このまま高齢者が増えると社会保障費と借金の返済で首が回らなくなってしまう。社会保障制度は見直さなければいけないが、高齢者が当落に大きな影響力を持っている中で候補者がそれを主張するのは賢明でない。

解決策は「定数の是正」と「若年層の投票率の改善」しかないと小林教授は言う。ただでさえ少ない若年層の投票率が低ければ、候補者も若年層向けの主張はしない。確かに若年層の政治的な発言力を高めるために投票率に関わらず、各世代に定数を決め議会に送り出す「年齢別選挙区」といった考え方もある。しかし、棄権した分の投票を他の人に委ねることとなり、1票が明らかに等価値でなくなってしまう。それは憲法の原則である「法の下の平等」に反してしまうため考えられないと小林教授は言う。

シルバー民主主義という問題は昔から指摘されていたが、今になって顕在化してきている。高齢者が自らの政治的権利を行使することは悪いことではない。「民主主義というのは投票した人にとっての民主主義」と小林教授が言うように一人一人が意識をどう持つかで日本の将来は決まっていく。  (寺内壮)