技術大国と言われ久しい日本だが、その技術を実際に生み出している「職人」を取り巻く環境はどうなっているのだろうか。今回はコンクリートイノベーションの分野などで活躍されている、慶應義塾大学商学部出身の足立隆之さんに、日本の技術開発等について、伺った。
下水道や地下鉄などは年月を経るに従って段々と劣化する。しかし、改めて作り直すとなると、その間は機能が麻痺してしまう。そのため使いながら機能を保全あるいは増強する工事を行う必要がある。これを、広義のコンクリートイノベーションと言う。
例えば現在、橋梁の新規投資は年間約1500億円である。過去10年くらいは、このうち5〜10パーセントが補修費に当てられていた。しかし、あと数年で50パーセントを補修費に当てないと維持することができない。そこで足立さんはプロダクトライフサイクル(物の寿命)を伸ばし、機能が経年しても落ちないで最高レベルを維持する技術を開発している。
この分野はこれからの20〜30年は大きなマーケットとなるだろうが、完全な解決の決め手となる技術は開発されているとはいえない状況であった。そこで、既存概念にとらわれない自由発想を持つ個人の技術職人が必要となるのだ。20世紀の技術開発は一つの目的に対する単品オーダー的なものだった。しかし、21世紀はひとつの技術体系ではクリアできない問題を、ひとつ以上の技術を複合させてひとつの問題を解決する複合技術という概念が必要となる時代であるという。ただし、いままでの深く狭い職人達のあいだだけでは問題の解決を図るのは難しい。そこで足立さんのように技術面からだけではない、商学部ならではのシナジー効果を前提にした新しい複合的視点による発想が生かされてくるのだ。
実際、今までの常識を覆すような突拍子も無いレベルの発想が、日本のあちらこちらで産声を上げている。足立さんは、「そのような人々の集合体組織のようなものを作りたい」と話す。だから、彼自身は技術職人ではないのだという。
個としての職人では出来ることが限られてしまう。金銭面でもそうだ。技術開発はライフワークであり、生活に不安があっては研究に没頭できない。研究対象を電子・原子レベルまで掘り下げれば今までにない多くの結果を得られるはずだが、その研究期間には資金は一銭も入ってこない。だからこそ21世紀の現代には、生活の不安なく研究に没頭できるエンゼルファンドのような社会システムが必要だという。
インタビューの最後に、足立さんは次のように話してくれた。「新しい発想を生み出すためには常に好奇心を持って周りを見て欲しい。そうすれば、自然と目が養われます」。そしてその発想を具現化し形にする事。そう意識するだけで21世紀の技術開発は大きく変わっていくだろう。
(川上典子)