10/13(祝) 慶應義塾大学・日吉グラウンド(神奈川県横浜市港北区)
14:00 Kick off ○ 慶應義塾大学B 65-7 流通経済大学B (関東大学ジュニア選手権リーグ戦)
15:45 Kick off ● 慶應義塾大学C 22-26 流通経済大学C (練習試合)

ハッピーマンデー“体育の日”。まさにラグビー観戦日和

10/13。電車の窓から外を眺めると、見渡す限り雲ひとつない、爽やかな秋晴れの空が広がっていた。実に気持ちの良い休日の朝。車内も、多くの家族連れで賑わっている。本当“体育の日”に相応しい天気・・・そう、今日は、“体育の日”なのだ。所謂ハッピーマンデー制度に未だ馴染めず、「やはり、体育の日は10月10日がしっくりくるなぁ」などと嘯(うそぶ)きながら、それでも飽きずに快晴の秋空を眺め続けていたら、果たして電車は東急日吉駅のホームに到着した。

さて、肝心のジュニア選手権リーグ戦、この日の慶應義塾大学Bチームの対戦相手は流通経済大学Bチーム。前回の早稲田大学B戦の記事内でも触れたが、慶應義塾大学Bチームは今季のジュニア選手権リーグ戦全5試合のうち、帝京大学B・明治大学B・早稲田大学Bとの3試合を1勝2敗の勝ち点7で終え、上位でのシーズンフィニッシュが困難な状況となった。特にリーグ戦最大の山場であった、前節の早稲田大学B戦(10/5、●20-24)の惜敗で、チームとしての目標をリーグ戦4位以内(※)に切り替えざるを得なくなったのが実情だ。兎にも角にも、残りの流通経済大学Bと東海大学Bとの2試合、勝利が必須条件となったのである。

(※)リーグ戦を4位以内でフィニッシュすれば、“グレード1”と呼ばれる決勝トーナメント進出が決定。5位or 6位になった場合はカテゴリー2の1位 or 2位のチームとの入れ替え戦に回ることを余儀なくされる。

勝利だけでは不十分。内容問われる試合に

先週に引き続き、“ホーム” 慶應義塾大学・日吉グラウンドでの試合。流通経済大学Bに対して随分失礼な物言いになってしまうが、正直言って、試合開始前から慶應が負けることは頭の片隅にもなかった。今季のリーグ戦、早稲田大学Bが83-3で、帝京大学Bに至っては98-0で粉砕した相手である。今季から、カテゴリー1に昇格した“新参者”相手に、勝利は最低限のノルマ。プラスアルファ、今節は「内容」が問われる試合――。

前節・早稲田大学B戦で露呈したラインアウトの脆弱は解消されたのか、FWに広く当てBKに素早く展開する“モーションラグビー”は、果たして機能するのか。プレースキックの精度は?試合のマネジメントの部分は?不安要素を挙げれば、キリがない。

ただ、そういったファクターを、日々の練習やミーティングを通じて修正し、実際の試合で同じような場面に遭遇したら、今度こそはしっかりとアジャストする。失敗→修正→成功という、一連の流れをこういったプレッシャーの少ない試合で完遂できるか。チーム、そして個人の成長を図る上で、流通経済大学B戦は格好の試金石となる。

来週の日曜日にはシニア(レギュラーメンバー)の帝京大学戦(10/19、秩父宮ラグビー場)も控えている。ジュニアが内容の伴った勝利を挙げることで部全体に良い流れを呼び込み、うまくシニアの試合に繋げることができるか。今節の興味は、大体そのあたりに落ち着いた。

「格の違い」見せつけ、攻守に圧倒

前半開始間もなく、相手ラインアウトの流れから奪ったボール、ハーフを介してオープンサイドに展開、最後はWTB三木貴史(経済2)がサイドを突破し先制のトライ。その後も、LO三輪谷悟士(総1)、WTB金本智宏(理工2)、NO.8明本大樹(総1)が、次々とトライを決める。WTB三木貴史も、もう1トライを決め、慶應は前半で早くも5トライを奪取。

後半開始後も、「後半に強い慶應」らしく、攻撃の手を全く緩めることなく相手に牙を剥き続けた。PR福岡良樹(環4)のディフェンスを引きずっての強引なトライに始まり、FB小林俊雄(経2)、また途中出場のLO藤本慎二郎(環1)、SO仲宗根健太(総1)、FB和田拓(法2)の3選手も次々にトライ。仕上げは、LO三輪谷悟士のこの日2つ目のトライ。計11トライを挙げ、大勝した。

チームの戦法としては、FWを中心とした前からの執拗なディフェンスで相手のミスを誘い、そのミスに付け込む。バックスの個人突破、もしくは彼らの走力を生かした素早い展開。最後はオープンサイドで〆る――。と、ここまではわれわれ取材者側も想定の範囲内。この試合、素人目にも個々の能力の差は歴然で、例えば両WTB(金本・三木)もトイメン(自分と相対するポジションの相手)の選手との勝負では、ほとんど負けていなかったように見えた。

ラインアウトも、前節に比べれば大分落ち着きを見せた。「ラインアウトのスローワーのHO小柳(貴裕、商4)は、元々スローイングの上手い選手なので」と林雅人監督は試合後語っていたが、本人も怪我から復帰して試合をこなしていく過程で、徐々にスローイングの感覚、その“機微”を取り戻しつつあるようだ。まだ多少の不安は見え隠れするものの「(ラインアウトは)試合を左右するような、大きな影響を与えるほどではなかった」(林監督)との認識で、今節は間違いないだろう。

だが、懸案のプレースキックがなかなか思い通りに行かない。ジュニア戦のキッカーはここ数試合、何かに“取り憑かれた”かのように、トライ後のコンバージョンキックを外している…。(何故“取り憑かれた”という言葉を使ったか?試しに帝京大学B・明治大学B・早稲田大学B、そして今節の流通経済大学Bとの4試合、トライ後のコンバージョンキックの成功率を見てみると、それぞれ、25%(1/4)・17%(1/6)・33%(1/3)・45%(5/11)。今節は途中出場の仲宗根健太の活躍で若干持ち直したものの、相対的に見ればやはり低い成功率である)。

「99年に大学日本一になったときの栗原や、昨年の小田みたいに、ああいう良質なキッカーがいるときのチームってのは…」

プレースキックの問答の最中、2001年卒の栗原徹(現トップイースト11・NTTコミュニケーションズシャイニングアークス所属)や、2008年卒の小田龍二(現トップリーグ・サントリーサンゴリアス所属)の名前が挙がってくるところを見ても、林監督自身あまり口には出さないが、この部分でかなりストレスを溜め込んでいるのかもしれない(観戦者の立場の人間ですら、ジュニアの試合毎に煮え切らない思いを抱くのだから、無理もないと思うが)。

ただ、試合後、ゴールポストに向かってひとり黙々とプレースキックの練習を行うFB小林俊雄の姿を目で追いながら、指揮官はこうも語った。

「彼(小林)は、1本目(Aチーム)で出場するだけの力を持っていると思う。このスランプを抜け出していつもの調子を取り戻したら、そのチャンスを掴むことができるかもしれない。だから彼も、何が今大切なのか分かっていて、ああいう風に試合後に(キックの)練習しているんだと思うんですけどね」

この言葉を訊きながら、筆者はほとんど感動しかけていた――。あれだけ失敗していても、決して見捨てない(勿論、今後もスランプが長引くようであれば、試合出場は困難になるかもしれないが…)。見捨てないどころか、じっくり長い目で見守っていくというのだ。以前自らが記した監督評を反芻し、自らの見解が的外れではなかったことを確信するに至った。〈要は、理論と精神のバランスが絶妙。言葉の本当の意味での「指導者」なのだ〉。

ただ、流通経済大学Bとの試合後、林監督の口からは反省の弁が多く聞かれた。「もっともっとフィットネスを生かして、相手に一気に畳み掛けなくてはならなかった」「こちらのタックルミスで、前半終了間際にトライを取られてしまった」「早稲田大学B・帝京大学Bは(流通経済大学Bに)トライを取られていない…」等々。

「勝って、いろんなことが見えなくなってしまう」ことの怖さが、指揮官の根底にはある(以前のインタビューでも〈人間、敗戦から学ぶことの方が多い〉と語っていたほどだ)。勝利に驕ることなく、足りなかった部分を冷静に見つめることが出来る。つくづく指導者向きの性格の人だな、と感じる。今節の反省点をしっかり炙り出した上で、次の帝京大学戦(10/19、秩父宮ラグビー場)との試合に繋げて欲しいと強く願う。

とりあえず、今節の流通経済大学B戦勝利で、慶應Bチームはジュニア選手権リーグ戦4試合を終え2勝2敗で勝ち点12獲得(内訳:帝京B戦1、明治B戦5、早稲田B戦1、流通経済B戦5)、勝率を5割に戻し、最終節の東海大学B戦(11/16、東海大学グラウンド)を迎えることになった。ちなみに、今回の流通経済大学B戦から、次の東海大学B戦まで約1ヵ月近く空くため、ジュニアの試合取材は暫くお休み。

ジュニア選手権リーグ戦を通じて、“準レギュラー”の選手たちが多くの場数を踏み、さまざまな経験を積むことが出来たのは慶應にとって何よりの収穫だった。試合勘を失わないように、と送り込まれた数人のレギュラーメンバーも、期待に違わぬ活躍を見せた。何より、チームの“幹”を太くするためにも必要なこのジュニア選手権リーグ戦の動向を、今後もしっかりチェックしていこうと思う。乞うご期待!

After Recording 取材を終えて・・・

両大学Cチーム同士の練習試合終了後。
ジュニアの試合に出場したFWの選手たちが、林雅人監督指導の下、シニア(レギュラーメンバー)の選手と共に、すっかり日も暮れ夜間照明の灯ったグラウンドで、1時間近くに渡ってラインアウトを入念にチェックしていた――。

その光景を端から見ていた筆者は、てっきり「今回の流通経済大Bとのジュニアの試合を通じてラインアウトの課題がはっきり見えたので、一層精度を高めるべくシニアの選手にも手伝ってもらいながら、ラインアウトの確認作業をしている」のだ、と思い込んでいた。

まったくの思い違いだった。

「実は、来週の帝京戦に向けての練習だったんですよ」(林雅人監督)

つまりは、1週間後に迫った帝京大学戦(10/19、秩父宮ラグビー場)を睨んでの、綿密なラインアウト練習だったのだ(練習を手伝っていたのは、ジュニアの選手の方だった!)。今年の夏合宿最中、長野・菅平で行われた帝京大学との練習試合(8/19、●7-15)は、林監督曰く「ラインアウトが取れずに負けた」。試合中の11回のラインアウトのうち、しっかりキャッチできたのは5回、実際にハーフに繋がったのは僅か3回程度だった…。

一方、自らのストロングポイントを“FW”と割り切っての、スクラム→パント、ラインアウト→モールといったシンプルな戦法、そして、その戦法の前提条件となるスクラム・ラインアウトなどセットプレーの安定に関しても全く問題なかった帝京大学とは、実に対照的な出来であった。林監督の胸にも、あの日の悔しさは、深く刻み込まれている。

「(今回慶應は)チャレンジャーなので。心置きなく攻めたいな、と」

慶應のラグビー、ボールを動かすラグビーで勝負しますよ。インタビュー終了後、筆者に向けて差し出された右手には、指揮官の“熱”がしっかり閉じ込められていた。

(2008年10月15日更新)

写真・文 安藤 貴文
取材 安藤 貴文