【連載主旨】多事「創」論
「自由の気風は唯(ただ)多事争論の間に在りて存するものと知る可し」「単一の説を守れば、其の説の性質は仮令(たと)ひ純精善良なるも、之れに由て決して自由の気を生ず可からず」。世の中は一つの考えでまかり通っている訳ではない。だが、多様な意見こそが決められた道のない今の時代を生きる我々にヒントを与えてくれるはずだ。福澤諭吉が唱えた自由の気質になぞらえ、広く多くの意見を集めて現代社会の課題を考えていきたい。
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<学習意欲は壊滅的 学生に火をつける教育を>
「内気な大学生」 これからは積極的な努力が求められる
今の学生は「内向き」で自信がないようにみえる。将来に対する目標が明確でなく、無難に生きようとする傾向にある。卒業単位を取得するために授業を履修することに終始し、高いハードルを設けて積極的にチャレンジしようとする姿勢に欠けている。これは内定を幾つもらっても就職活動を続ける学生が多いことや、学生が海外留学をしない理由にも通じるものがあるのではないだろうか。「将来、社会にどう貢献していきたいか」を明確にし、目標に向かって積極的に努力することが現在の学生に求められるだろう。
問われる大学の役割 「学生の心に火をつける教育を」
大学は学生の学習に対する意識を変える役割を果たさなければならない。しかし、学生を「鍛えよう」という意志が足りない教員が多いのが現状である。教員の一方的な講義では、学生の意識を変えることは出来ない。現在の学生の学習意欲は危機的状況にあるが、責任は学生だけにあるのではなく、教員側にもある。学生の心に火をつけるような熱意ある大学教育が今こそ必要だ。
大学入試制度、全面的に変更を
そもそも入試制度を全面的に変えるべき。学生の基礎学力を養う点において、ペーパーテストに疑念はないが、面接や論文形式の入試を導入することで受験生は大学に対する強い志望動機を述べることが必須となる。現代の内気な学生に、まず大学に入学する意義を考えさせることは、学習意欲を改善させる一つの基盤になると考えている。
リーダーシップ向上と学ぶ姿勢の改善急ぐ 柔軟な教育環境の実現
現在、東工大では平成二十八年度スタートに向けて教育改革に着手している。この改革でも学生のリーダーシップの向上・学ぶ姿勢の改善を重視している。具体的には、ディスカッション形式の授業を多く取り入れ、そのための教授法・教育施設・環境を整備していきたい。自分の意見を積極的に発言する環境の中で、教員と学生のインタラクティブな学習を進めることができると考えている。また、国際化の推進にも力を入れており、その一つとして履修順序を予め定めたカリキュラムを構築する。これにより、年次に囚われず、学習を達成度により進めることができる。学生の短縮修了を可能にし、海外留学への時間的負担や不安を少なくすることにも繋がるだろう。
国際競争の時代 共同研究と相互提携
今後求められる国際競争力を増強させるには、一層、研究と教育の国際化を進める必要がある。
研究面では研究・論文の質を高め、国際共同研究の成果をあげていきたい。また、海外の研究者が東工大に集うような環境を実現したい。
そして教育面では、海外トップクラスの大学と同質のカリキュラム・シラバスを作り上げ、単位互換制度を進めることが目標。学生が半年、1年間程度留学できるような柔軟な教育環境を実現していく。
今後、活発な単位互換が可能となれば、多くの優秀な海外留学生を日本の大学に呼び込むことできるだろう。よりグローバルな教育研究の取組みを広げていきたい。
大学紹介
東京工業大学は2011年に創立130周年を迎えた日本有数の理工系総合大学である。RU11(学術研究懇談会)には2010年8月に加盟。東工大の三島良直学長は現在、「世界のトップ10に入る研究大学を目指す」という目標を掲げ、創立135周年を迎える平成28年度に向けた教育改革に着手している。