作品に美術品としての価値を
歴史ある慶大には数多くの美術品が保管されている。それらを管理・ケアしているのが「美術品管理運用委員会」。2002年発足以来10年以上にわたって活動を続けている。
大学内にある多くの美術品の管理がバラバラになされていたので管理を全体でまとめようということから発足した。教員と事務が別々に活動する大学組織だが、この委員会は常任理事・教員が委員となりアートセンターの所員が加わるという共同的な組織体で活動している。物理的に管理をする管財部と美術品の価値や修復のやり取りの経験があるアートセンターの専門家が協力し、学校ではあまり見られない新しいシステムを作って学校内の美術品管理に努めている。
必ずしも美術品として入ってきたものではなかった何気ないものが、実はかなり貴重なものであったりすることがある。「美術館にいた人間が大学に来て驚くことは、大学では作品が作品扱いを受けてない場合があるということです。作品を作品として認識してもらうことが出発点です」と語るのは慶大アートセンター教授・キュレーターである渡部葉子氏。いろいろな経緯で入ってきた作品にどういった美術的価値があるのか再発見することがこの委員会の役目の一つだ。
また、みんなに見てほしい、知ってほしいということから学校内の彫刻やモニュメントに説明書きのキャプションをつけることもしているそうだ。
今までの活動の中で修復が大変だったものの一つは三田キャンパス生協食堂の壁画。この壁画の修復はすべての壁画を外してもう一度元に戻し、またその際天井をずらしたり屋根の形を変えたりなど大がかりな修復となった。また、修復後は次の修復のことも考えて設置し、報告書もその都度作成して保管している。
もう一つ修復にあたって大変だった美術品は三田キャンパス図書館旧館1階にある大理石彫刻の「手古奈」。この作品は旧図書館の地下から50年ぶりに発見された。発見時の状態は良く、カビや虫食いはなかったが、戦災に遭っていた。この戦災の跡を残しつつ展示できる状態まで修復するか否か、当時の塾長も参加するほど大きな議論が行われた。「作品がたどってきた歴史をみんなに見てもらうにはどういう形で作品を残すべきなのか、一つの作品をめぐって修復の考え方を学校全体でディスカッションできたのは大きいです」と渡部氏は議論を尽くした上での修復の大変さと重要性を語った。
今後の課題は慶大および付属校内の美術品のデータベースを作ること。みんなが美術品に触れられるようにして、多くの人が情報を共有できるようにするためだ。「情報がないと作品の大切さが分からない。みんなに作品に対してリテラシーを持ってもらうことが、学校全体で美術品として作品を大切にすることにつながります」と渡部氏は目標を語ってくれた。 (柳井あおい)