あなたは「伝」という漢字に何を思うだろうか。伝達、伝説、伝統…。来年7月に迎える塾生新聞500号を記念して、「伝」をテーマに社会で活躍されている慶應義塾と所縁のある人物に焦点を当てていく。4回目は東野圭吾氏、宮部みゆき氏、池井戸潤氏といった有名作家たちの著作をプロデュースしてきた、講談社編集者の西川太基さんだ。
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編集者という仕事
名だたる作家たちがいくら面白い本を書こうとも、売り方次第でその成果は変わってくる。一冊の本を作り売り出すまでには、作家だけでなくその裏方にも活躍している人たちがたくさんいる。西川さんもその一人だ。
「編集者という仕事は学生のころから小説を読むことが好きだったから選びました。この仕事を選べばずっと楽しみながら仕事ができるのではないか、と思って講談社に就職することにしました」。
編集者の仕事とはどのようなものなのだろうか。「主な仕事は、より売れる本にするためにカバーのデザインを考えたり、書店に行って売り方を考えたりします」。一番最初に本が生まれる瞬間に立ち会う。この感動を体感できるのが編集者の仕事の特権だ。
では、西川さんはこれまでどのように「面白い本」を「ヒット作」へと昇華させたのだろう。
東野圭吾氏のヒット作、『流星の絆』を手掛けたことを西川さんはこう振り返る。
「初めてこの作品を見た時、ドラマとして成功すると確信しました」。そこで、「早めの段階で複数のテレビ局に原稿を送る」という手法を取った。最終的にTBSからオファーをもらい、嵐の二宮和也主演、宮藤官九郎脚本でドラマ化されることに。ドラマは大ヒットを記録し、原作も130万部を超えるベストセラーとなった。
編集者の思う「伝える」
そんな西川さんにとって伝えるとはどのようなことだろうか。
自分が思っている通りに相手を理解させることは難しい。伝えたいと思ったとき、相手のことを考えずにただ一方的に伝えるだけではうまくいかない。そんな時、「10年後の相手の立場や家族の状況とかそういったことを想像してから伝えようとする。そうすることで、相手も自分のことを考えてくれる。そしたら伝わった後のことも円滑にいくはず」と、長年編集者として読者と作者の架け橋となってきた西川さんは語る。
本のプロデュースにもその考え方は生かされている。「一つの本を売るならば、まずそれが誰に読まれるかを想像する。どの年齢層が読むのか。できるだけ多くの人に読んでもらえればいいのか。ある特定の層に読まれればいいのか。常にそういったことを意識しています」。
書店で何気なく手に取る本には作家だけではなく、想像力を最大限働かせて努力を重ねた編集者の「伝える」思いも込められているのだ。
(在間理樹)