21世紀の現代社会における諸問題をテーマにした、慶應義塾の教員と塾員による講演会シリーズ「慶應義塾創立150年記念講演会 学問のすゝめ21」の最終回が、9月23日NHKホールで開催された。「学問」の深さと楽しさを再発見する機会として企画された本シリーズは、昨年8月から全国13カ所で行われ、総動員数は1万5千人に上った。
今回は「日本人のアイデンティティー」と題し、パネルディスカッションを開催。パネリストに茶道上田宗箇流16代家元・上田宗冏氏、東京大学大学院教授・坂村健氏、宇宙飛行士・向井千秋氏、キッコーマン株式会社代表取締役会長CEO・茂木友三郎氏、安西祐一郎塾長、コーディネーターにアナウンサー・宮本隆治氏を迎えて開かれた。
議論の中心となったのは、先進国の仲間入りを果たしたと認識されている日本が、未だに抱えている多くの問題について。財界、文化、科学、教育と異なった観点から、それぞれの分野の第一線で活躍しているパネリストたちが意見を交わした。
ディスカッションは事前に行われた参加者アンケートの結果を切り口に展開された。
『今の日本人に足りないと思う要素とは』の質問に対して「思いやり」「自己主張」「礼儀」といった回答が多くみられたことを受け、茂木氏は「日本人は議論のキャッチボール能力が不足している。日本人としての誇りが他国に比べて足りない」とコメント。また、「日本人は謙虚すぎる。自己犠牲の精神が強い」との意見も、坂上氏から述べられた。
『外国から見た日本について』という話題には、食文化やアニメなどを例に挙げ、日本文化が海外で普及していることを各氏が主張。上田氏は「四季の移り変わりと共に感じる美意識は外国で見られない」と、日本人の美意識を高く評価した。
国際社会が拡大している今、慶應義塾も数多くの留学生を迎え、また輩出している。安西塾長は「異なる背景をもつ学生と切磋琢磨することで、均一になりがちな考え方を広げることが必要。(外国人と接するなかで)壁に当たっても、それを乗り越える経験をしてもらいたい」と訴えた。
これからの日本における若者の育成について、「人に教えられるより、自分から学ぶ方が面白い。与える教育より、持っている能力を伸ばす教育を」と向井氏が呼びかけると、会場から大きな拍手が送られた。
会場では宮本氏のユーモア溢れる進行に時折笑いも起こり、観客は講演に終始、熱心に耳を傾けていた。