色づく前のイチョウがイメージされた塩野の「銀杏」
かぼちゃや栗のケーキやプリンなど、秋を彩る洋菓子が並ぶ季節。秋の訪れを告げるお菓子は洋菓子だけでなく、和菓子にも見られる。

見た目以上のこだわり
赤坂の路地に面する御菓子司「塩野」。創業してから現在2代目と、老舗ではないがその人気は根強い。静かで落ち着いた雰囲気の店内が印象的だった。まずは、11月に店頭に並ぶ上生菓子を見せてもらった。秋らしく紅葉やイチョウをイメージしたものが多い。イチョウが2枚重なったように見えるのは、1枚のういろうの生地を折り重ねて中に黄身餡をはさんだもの。菓銘は「銀杏」で、まだ色づく前のイチョウをイメージしたそうだ。

「和菓子は季節を先取りして作られている」と語るのは、長年「塩野」で職人として働き、現在は工場長を務める小倉進さん。

デザインについては、秋ならば紅葉や、松茸など山の幸といったものを取り入れることを意識しているそうだ。生菓子だと抽象的なイメージとなることもあるが、干菓子の場合は「栗や松ぼっくり、菊など具体的な形をストレートに出せるので、作っていて楽しい」と小倉さんは語る。
長年塩野で職人として働く小倉さん

和菓子の案が決まったら、次は実際に試作する過程に移る。大体1、2週間ほどかけるそうだ。他の和菓子との色の兼ね合いや餡の種類など職人たちで意見を出し合い、「塩野」のイメージを壊さないよう上品ではっきりとした色合いを目指して試行錯誤の日々が続く。

とはいえ、「塩野」では毎月異なった上生菓子が10種類ほど並ぶのだが、新作はあまりないそうだ。その数少ない新作を作る際も、『「塩野」らしい和菓子を心掛けている』という。

また、和菓子はほぼ全て手作業で作られるが、1つの生菓子は1年に1回しか作る機会がないので、上達には2、3年かかるそうだ。現在「塩野」で働く職人は9人で、内4人が女性。毎朝6時ごろに出勤し、開店までにいかに準備を済ませるかが勝負となる。小倉さんは「職人は体調管理としっかりとした心構えが重要だ」と強く語った。

季節のイメージを大事にして作られる和菓子。話を聞くと見た目以上にこだわって作られていた。和菓子に触れる機会はあまりないだろうが、今年の秋には趣を変えて和菓子も食べてみてはどうだろうか。 (草尾依里子)