あなたは「伝」という漢字に何を思うだろうか。伝達、伝説、伝統…。来年7月に迎える500号を記念して、「伝」をテーマに社会で活躍されている慶應義塾と所縁のある人物に焦点をあてていく。第3回の今回は、2020年のオリンピック・パラリンピック招致活動に尽力した竹田恆和氏だ。

【プロフィール】

昭和47年ミュンヘンオリンピック・昭和51年モントリオールオリンピック馬術競技日本代表選手、13年よりJOC会長に就任(現職)、24年7月よりIOC委員に就任。2002年ソルトレーク冬季オリンピック・2004年アテネオリンピック日本代表選手団団長、IOCソチ冬季オリンピック調整委員、IOCピョンチャン冬季オリンピック調整委員、日本馬術連盟副会長、国際馬術連盟名誉副会長、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会理事長、日本体育協会理事、エルティーケーライゼビューロージャパン(株)代表取締役社長

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信頼関係から理解が生まれる

9月8日、多くの日本人が歓喜し将来への展望に思いを巡らせたのではないだろうか。それは2020年に開催される五輪の開催都市が東京に決定したからだ。今回の招致活動において五輪・パラリンピック選手、安倍首相など数々の人たちが東京五輪招致活動に向け活躍した。現JOC会長の竹田氏もその一人だ。

2011年から東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会理事長として招致活動を先導し、2020年五輪の東京招致に見事成功した。これは、オールジャパン体制での活動による賜物である。

リオデジャネイロに敗退した4年前の招致活動。一番の敗因は国内の支持を得られることができなかったことだ。しかし、今回の招致活動は違った。政財界などの各界の人間が五輪招致の重要性を伝えるなど、対外的にだけでなく国内に向けてのアピールも欠かさなかった。それに加え、「昨年のロンドン五輪での日本人選手の活躍が、支持を得るためのきっかけとなったのではないか」と竹田氏は分析する。
これらの活動や選手の活躍によって、文部科学省が8月に発表した世論調査で92%が国際競技大会の開催を支持するという結果が表れた。

招致が成功した要因として竹田氏は、「政府・国会・経済界といった日本中に組織を持つ方々が評議会に入って頂いた。そうした日本全体で招致をしたいという姿勢がIOCの方に示せたのが大きかった」と語る。またIOCの信頼を獲得するために、IOCへの地道なロビー活動も行った。

東京に開催都市が決定した瞬間、「言葉に表せないほどうれしかった、感無量でした」と喜びの瞬間を振り返る。1981年に名古屋五輪の招致活動を始めて以来、32年間多くの人たちが日本での五輪開催のため努力してきた。その永年の希望が実った時の喜びは計り知れない。

今回の五輪開催都市の決定において、最後の決め手となったのが9月に行われた最終プレゼンテーションだ。
「全体で一つのストーリーを作り、各自が役割を果たすことを心掛けた」という今回のプレゼンテーション。竹田氏自身はJOC会長としてIOCの方々へエモーショナルに語りかけた。

最終プレゼンテーションで素晴らしい発表を行った竹田氏にとって「伝える」とは「日頃からの信頼関係の構築があってこそ、相手の理解が生まれるもの」だと話す。「今回の招致活動で我々の計画をIOCの方々に話す際、彼らに信じてもらえなければ何も始まらなかった」と振り返る竹田氏。信頼を生み出すために誠心誠意相手と接することを大事にしたそうだ。

最後に学生に向けて、「学生時代にいろんなことに興味を持ち、何事にもチャレンジすることを心掛けてほしい。そういう中で、誰にも負けない事を一つ身に付ける事は、将来必ず大きな力になる」と力強いメッセージを述べた。

五輪東京招致のニュースが震災、不景気と暗いニュースが続く中で日本を元気にしていることは間違いない。今後の動きが期待される。

(在間理樹)