それぞれの活動に違う価値観と満足感

防災と金融。世界から注目される「BCM格付融資」は2つの専門技術を結びつけることで生まれる革新的な金融商品だ。これを開発したのが、日本政策投資銀行に勤める蛭間芳樹氏。経済学部ゼミナール委員会が11月24日(日)に開く講演会の登壇予定者だ。

BCM格付融資は、企業の財務、損益情報だけでなく防災、事業継続対策も評価対象にしている。審査の判断材料となる企業の危機管理情報を集めるために、必ず自分たちの足を使う。「災害に対する事前投資を行う企業は価値がある。持続可能な社会の構築に大きな貢献をもたらし、社会的責任を果たす」と蛭間氏も積極的に現場へ向かう。

危機管理に関心をもつきっかけとなったのは、大学在学時に起きた新潟県中越地震だ。それまで社会基盤、都市計画、まちづくりを勉強していた。しかし、震災翌日に現地で、学んできた机上の論理や単位取得のための学問だけでは成立しない現実を見て価値観が揺さぶられた。そして、たどり着いたのが大学院で都市防災の実践を研究することだった。

しかし、研究者としてではなく銀行員として防災に向き合う道を選ぶ。「地震が起きるたびに、いつも同じ課題が浮き彫りになる」ことに疑問を持ったからだ。そして、研究の専門知を社会に実装させるアプローチが必要だと考えた。「金融技術が加われば、これまで以上に危機に強い日本を創ることができる、代替のきかない社会の資産、人命を守ることができるのではないか」。そう考え、同じ価値観の集団、防災村から抜け出し、銀行に就職した。

蛭間氏の肩書きは、銀行員だけにとどまらない。休日は、ホームレスが選手のサッカー日本代表チーム「野武士ジャパン」の監督をボランティアで務める。ホームレスに対する「努力が足りないだけ」という偏見を覆される経験が契機だった。「ホームレスワールドカップを日本で開催することが夢」と活動に真剣だ。

災害やホームレスといった社会の盲点になりがちな問題に正面から取り組む理由は、何事もバランスだからだと言う。「世の中には、光もあれば影もある。限られた価値観でつくられた社会は脆弱で、バランスが悪い。日本にある、清く・正しく・美しく、見ない・聞かない・言わないという空気が、都合の悪いものには蓋をし、多様な価値観や存在の多様性を排除する助長となっている」と言う。

目標を実現させるため、多様な顔も持つ。多忙な中、さまざまなことに取り組めるのは、「物事はトレードオフではない」という考えがあるからだ。「平時であれば、何か選択するために、他を犠牲にするという思想は損。それぞれの活動に違う満足感や価値観を得られる」と自身の活動にとても前向きだ。

今までの経験から、学生時代には「人生は一度きり、リーダーシップをもって好きなことに挑んでほしい」と話す。そして、「情報技術が発達している現在だからこそ、人に価値がある。価値観を揺さぶられるような、自分の人生にスイッチが入るような原体験を一つでも多く積んで、小さくまとまらないで欲しい」と語る。

最後に、講演会について「経済学が防災や危機管理に、どう貢献するのか、学問として進化していくかが楽しみだ」。学生時代から、多様性を大事にしてきた蛭間氏ならではの意気込みを頂いた。   (鈴木悠希子)

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経済学部ゼミナール委員会主催の講演会は11月24日13:00-15:30、南校舎ホールで行われる予定。