先の参議院選挙で自民党が議席の過半数を獲得したため、国会のねじれ状態が完全に解消された。政策遂行に専念できる環境が整った今、法案提出が相次いでいる。ひときわ若者の注目を集めているのが、憲法改正のための国民投票の投票年齢を「18歳以上」に引き下げる国民投票法の改正案だ。同法案が成立すれば、大多数の大学生が改憲について国民投票に参加することになる。(大橋真葵子)
***
憲法改正 投票年齢は18歳以上に
憲法改正を目指す自民党は臨時国会に向けて国民投票の投票年齢のみ18歳に引き下げ、成人・国政選挙権年齢は20歳のままを維持する方向で改正案を提出することを決めた。同法では公職選挙法上の選挙の投票年齢の引き下げも含まれていたが、今回の改正案では国民投票の投票年齢の確定を急ぐ形だ。
平成22年に施行された国民投票法(日本国憲法の改正手続きに関する法律)の第3条において、18歳以上の日本国民は国民投票における投票権を有すると明記されている。しかし附則第3条では、この法律が施行されるまでに公職選挙法と成人年齢を定める民法との整合性を図ることが条件となっている。その議論が手つかずのままであるため、国民投票の投票年齢も20歳以上となっている。
同改正案が成立すれば、大学生を含むより多くの若者が国民投票の投票権を有することになる。慶大法学部の小林節教授は、国民投票の投票年齢が18歳以上に改正されることに対し、「若者は今の政治家に比べて、考え方に柔軟性がある。憲法への関心も高まりつつある」と期待している。だが、国民投票の投票年齢引き下げが若者に及ぼす影響は、今回の改憲問題にとどまらない。国民投票の年齢が先行して18歳以上と定められれば、成人年齢や国政選挙についても今後議論される可能性が大いにある。
選挙権年齢のデータがある世界の192の国・地域中170が18歳以上に選挙権を与えており、サミットの参加国G8の中で18歳までに選挙権を与えていないのは日本のみ。高齢化が進む日本では、世代ごとのバランスを取るためにも選挙権年齢の引き下げの必要性は高まっている。
一方で慶大法学部の小山剛教授は、「国民投票と社会上の成人とでは要求される能力が違う」と指摘。成人年齢の引き下げをあえて急ぐ必要はないとの考えを示した。
東京地裁は今年3月、成年後見制度の利用者は選挙権を失うことが規定されている公職選挙法についてこの規定を「違憲・無効」とする判決を下した。判決は、成年後見制度の目的である財産管理と選挙権行使の能力は異なり、一律に選挙権を奪うことは基本的人権の侵害であるという主張だ。
小山教授はこの主張を踏まえ、民法と国民投票で要求される能力の違いから、成人年齢をも引き下げる必要は必ずしもないと論じている。仮に成人年齢が引き下げられれば、今日まで未成年者として保護されていた若者も社会的責任を負い、少年法なども適用されなくなる。いずれも慎重に検討すべきであるとした。
成人年齢が18歳に引き下げられるか否かは定まっていないが、国民投票の投票年齢は18歳以上で確定する見通しがついた。憲法改正の国民投票が行われる際、ほとんどの大学生が改憲の是非を問われることになる。小林教授は「憲法とは国民が国の権力を制限できるものである。憲法を使って国民を縛ろうとする改憲案には騙されず、自らが主権者であることを忘れずに、正しい眼で適切な判断を下してほしい」と述べている。