3つの理念と多様な人材
例年9月、司法試験の合格者が発表される。今年度司法試験においては、法科大学院別ランキングで、慶大法科大学院は合格者数・合格率ともに1位に輝いた。 法科大学院とは、司法制度改革の一環として、法曹養成の教育を行う目的で2004年より創設された専門職大学院である。慶大でも同年に設置された。
この法科大学院を修了するか司法試験予備試験に合格をしなければ、司法試験の受験資格は得られない。つまり司法試験受験のための2つの門戸のうちの1つが、この法科大学院なのである。
今年度に限らず、例年合格者数などにおいて上位の成績を残す慶大法科大学院。優れた実績を出す秘密は、いったいどこにあるのだろうか。 司法試験合格者を多数輩出している要因と、慶大法科大学院の特色について話してくれたのは、慶大法務研究科委員長の片山直也氏。
慶大法科大学院には「先端性」、「国際性」、「学際性」の3つの根幹となる設立理念がある。
法律は常に社会の実情に合っていないとならない。そこで必要とされるのが学問の「先端性」だ。慶大法科大学院では、基礎的な学問の上に、先端的な内容を含む科目を設置することで、社会において先導的な役割を担う法律家を育成する。
また、急速に進むグローバル化は、法律問題にも国際化をもたらす。そこで外国の法律を学ぶ科目も設け、学びの「国際性」を追求し、学生に国際的な視野をもたせる。
「学際性」も重要だ。日々発生する多様な法律問題に対応するには、学問と学問の交流が必要になる。「医事法」は医学と関連するし、「環境法」では理系的なアプローチが求められる。
変わりゆく日本社会で発生する法律問題を先導して解決できるリーダー。慶大法科大学院が養成を目指す法律家の像である。
今年度の司法試験で輝かしい成績を残せた理由について、「学生のみならず、教員も高い意識をもっている」と話す。大学院が一体となって法曹の養成に臨んでいることを強調する。ここに慶應義塾の「半学半教」の精神が生かされているという。
三田会をはじめとした卒業生からの支援や各種奨学制度、ゼミや進路相談会も用意されている。こうした各方面からのサポートが、院生の意欲の向上につながっている。
さらに授業では、「基礎を徹底し、時には司法試験のレベルを超えた課題を出す」と話す。この授業形式が、司法試験で効果を発揮しているのだ。
こうして慶大法科大学院で学んだ生徒たちは、多方面で活躍している。弁護士だけではなく、裁判官や検察官に就任するものが多いのも特徴だ。ほかにも民間就職など、従来の枠にとらわれず、さまざまな進路をとる。
「学部で法律を学んだ人だけではなく、多様な人材に入学してほしい」と語る片山氏。社会人などの入学や帰国生、理系学部からの進学も増加している。
時代の先導者を輩出しつづける慶大法科大学院。先行きが見えづらい現代社会だからこそ、その担う役割は大きい。これからの慶大法科大学院の働きに大きな期待がかかる。 (斉藤航)