図書館でコーヒーを飲みながら本や雑誌をめくる。4月、佐賀県の武雄市図書館が民間企業であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を指定管理者としてリニューアルオープンした。スターバックスとTSUTAYAが併設され、年中無休ということもあり、オープンから多くの利用者を集めている。新しい試みとして注目される武雄市図書館は、これからの図書館のあり方を変えるのか。
民間ならではの演出光る
図書館経営に詳しい文学部の糸賀雅児教授は、実際に武雄市図書館を訪れた時の印象を「他の図書館では味わったことのない雰囲気だった」と語る。具体的には代官山の蔦屋書店を彷彿とさせ、本に囲まれた感覚をもたらす書架配置やインテリア性の高い照明・家具類など、民間企業ならではの演出が随所に見られたという。
また、スターバックスやTSUTAYAが併設されていることに触れ、「今まで図書館に来なかった層を呼ぶきっかけになるのではないか」と話す。そういった意味で「従来の図書館が持っている価値とは違う価値を実現させた」と糸賀教授は見る。つまり、武雄市図書館の価値やサービスは「従来の図書館のものさし」で測ってはいけないと言う。
例えば、新聞・雑誌を広げるスペースが狭かったり、車イス利用者への配慮がなかったりと普通の図書館では問題視される点もいくつかある。しかし、それらの問題点もさることながら、上に挙げたような従来の図書館にない魅力が多くの利用者を引きつけるのだろう。 その一方で、民間が運営することで生じた問題点もいくつか挙げられる。その一つが武雄市図書館の貸出カードにはTポイントカード(利用金額に応じてポイントがつき、現金同様に使うことができる)としての機能もついている点だ。
貸出の際に一日一回限定で3ポイント(3円分)が付与されるが、これが営利目的なのではないかという指摘がある。これに関して糸賀教授は、「図書館側はポイントを付与しているだけなので、これをもって貸出を営利目的と解釈するには無理がある。むしろ行政が税金で運営する図書館でポイントが付与されることで、結果的にポイントが使える一部の店へ客を誘導すること」のほうを問題視する。また、武雄市図書館ができたことで、近くの書店の売上が前年の同月と比べ1割減ったが、行政が資金を出しているだけに、民業圧迫ではないか、といった批判も予想される。
これから武雄市図書館の運営を継続するためには、スターバックスやTSUTAYAレンタルの売り上げが重要になってくる。なぜなら一般的な公立図書館と違い、年中無休で21時まで開館している武雄市図書館は、人件費が多くかかり、また貸出機なども最新のものを使っているため、市から支出されている指定管理料だけでは賄いきれないからだ。一部で「商売が前面に出すぎ」との指摘もあるが、ある程度は仕方がない部分がある。
今後、武雄市だけでなく宮城県の多賀城市にもCCCが運営する図書館ができる予定だ。採算を取りながら、新たな市民価値の創造を図るといった意味で、このような民間企業とコラボした図書館は広がりを見せそうだ。
図書館のあり方に一石を投じた武雄市図書館。これからも新しい価値を創造し続けることができるのか、注目したい。
(矢野将行)