経営管理研究科 井上哲浩教授
マーケティングの新たな可能性を生み出す「ソシエタス」という人間のグルーピングシステムが開発された。私たちの生活に欠かせないものに関するデータを基につくられたソシエタスというシステムは、対象者を絞り込んだマーケティングを可能にする。このソシエタスの研究をシナジーマーケティング株式会社と共同で行った井上哲浩教授(慶大大学院経営管理研究科)にシステムの概要を伺った。                 (浦野志都)

効果的なマーケティング戦略へ
ソシエタスは社会全体で消費者がどのようなグループに分類されるかを明らかにしたものだ。いくつかのバージョンがあるが、基本は12タイプのグループが定義されている。「受け身な隠者タイプ」や「社交的な堅実ホームメーカータイプ」などが例である。
これらのタイプは社会全体を表すデータ、いわゆるビッグデータに基づき分類された。この中には、私たちにとって身近なSNSに関するソーシャルデータ、また今後は交通ICカードのデータなども含まれていく。 これまでにマーケティングを変化させた大きな分岐点は二つあった。一つ目は87、88年ごろ、JANコード(バーコード)の登場である。発注データのみならず売り上げデータを管理できるようになったことで、売上予測の精度が上がり、広告効果も測りやすくなった。 二つ目は95、96年ごろ、ウェブが民間に開放され、情報が増えると同時にメディアが増えたことである。企業は直接消費者とコンタクトをとったり、商品を販売したりできるようになった。何も媒介せずに消費者への効果を調べることが可能になったのである。
現在は、デバイスやメディア、インフラ(LTEなど)、プラットフォーム(Facebookなど)が相互に刺激し合って巨大に膨らんでいる。「これらの変化を総合してマーケティング戦略を練っていく必要があった」と井上教授は語った。
ターゲットの中で一番多いソシエタスのタイプを調べれば、その属性に絞った方法を使うことが可能だ。ソシエタスを利用することで、より効率的かつ効果的なマーケティング戦略を組めるようになる。
加えて、どのようなタイアップをすれば消費者にうまく働きかけられるか導き出すことも可能だ。鉄道と飲料、衣服といった異業種間のコラボレーションも実現するかもしれない。これは総合的にデータを扱うからこそできることだ。
「急増するデータに対してシンプルに世の中を整理したい」。「十数年に渡り蓄積されたクラウド型データという『資源』を活用したい」。そういった考えから作られたソシエタス。研究をする中で困難だったことは、増大し続けるデータとテクノロジーに対応することだった。新たなメディアが生まれると、その特性を考えなければならない。「将来、別のインパクトが生じればソシエタスを新しくつくり直す必要があるだろう」と話した。 メディアやテクノロジーが変化する度に、マーケティングも進化している。慶大大学院での研究が社会にどのような効果をもたらすのか期待したい。
【慶大大学院経営管理研究科ではこのように実践的な研究をしている。慶大のすべての学生を対象にした「塾内選抜制度」という受験枠を設けており、ビジネスリーダーになりたい人は受験を考えてほしい。】