日差しが強くなり、いよいよ夏も本格化してきた。そこで気をつけなくてはならないのが熱中症である。熱中症には水分補給が重要であるが、水を飲み過ぎることは体にとって逆効果であることをご存知だろうか。この夏に向けて知っておきたい正しい水分補給の仕方について、慶大保健管理センターの専任講師である神田武志さんに話を伺った。   (安田麻里子)

熱中症予防四つのポイント
熱中症予防の上で重要なポイントが四つある。
一つ目は気温と湿度。気温が35度以上の場合では運動は原則中止とされているが、気温がそれほど高くない場合でも湿度が高い時は熱中症になりやすい。その際、熱中症予防に有用な指標となるのがWBGT(湿球黒球温度)である。WBGTとは、人体の熱収支に影響の大きい湿度、放射熱(周囲の物体が放つ熱)、気温の3つを取り入れた指標であり、WBGT31度以上では運動は禁止されている。各地域のWBGTは環境省のHPからいつでも確認することができる。二つ目のポイントは水分補給。汗をかくときには、水分と一緒に塩分も外へ排出される。そのため食塩の濃度が0・2%ほどの冷たいスポーツドリンクなどを飲むのがよい。量は、運動の2時間前に400㍉㍑、運動の最中20分おきに200㍉㍑程度摂取するのが一つの目安とされている。運動の前後で体重を計り、体重の増減を調べることで正しく水分補給できているか確かめることもできる。
三つ目のポイントは体調管理。寝不足やしっかり食事をとっていない時は、熱中症に特に注意しなくてはならない。また四つ目のポイントは暑さに身体を慣らすことである。
最後に、もし熱中症になってしまった場合。意識がないときは救急車をすぐに呼び、意識はあるが自力で水分を摂取できない場合も病院などの医療機関へ搬送するべきである。「熱中症は死につながることもあるため、少し過剰に反応するくらいでいい」と神田さんは言う。

過度の水分補給に注意
普段の生活でも熱中症に対する予防意識を高く持ち、こまめな水分補給を心掛けている人は多いだろう。しかし必要以上の水分補給はマラソンなどのスポーツで認められている低ナトリウム血症を引き起こす場合がある。血液中のナトリウム濃度は浸透圧の決定という大事な役割を担っており、なるべく一定になるように保たれている。大量の水を摂取すると、浸透圧を一定にするため細胞内に水が流れこみ、さまざまな症状を引き起こす。頭痛や嘔吐、脳の組織内に水が溜まることで脳が腫れる脳浮腫といった症状から、意識障害や呼吸困難になり死に至るケースもある。
このような低ナトリウム血症の対策としては、一気に大量の水分をとることは控えること。一般的に体重の減少が2%未満になるような水分補給が推奨されている。下痢や嘔吐で脱水になった場合も、水分と共に電解質もかなり失われるため、普通の水ではなく経口補水液などをとるほうがよい。経口補水液は食塩濃度が3%と市販のスポーツドリンクよりも高く、ナトリウムの吸収を助ける糖も一緒に含まれている。
夏を有意義に楽しむためにも、熱中症や低ナトリウム血症にならないよう正しい水分補給の仕方をきちんと知っておきたい。