1966年から歌舞伎が上演されている国立劇場

時代に柔軟な演目内容

客席を縦断し、舞台からまっすぐのびる花道。黒・柿・萌黄の三色の定式幕。豪華な衣裳や白塗りの化粧。日本が誇る伝統舞台芸術である歌舞伎。誰もが知っているものの、生の舞台で歌舞伎を鑑賞したことがある人は多くないだろう。

「歌舞伎らしさとは観客に新鮮な驚きを与えること」と話すのは国立劇場制作部歌舞伎課の地頭薗大介さん。新鮮さを与え続ける歌舞伎の魅力とはどのようなものなのか。

歌舞伎には他の舞台芸術にはない独特の舞台装置がたくさんあり、演出にさまざまな効果を与えている。客席の中を通過する花道は役者と観客の距離を縮める役割がある。江戸時代に歌舞伎で発明された「廻り舞台(盆)」という回転する舞台や、定式幕という引幕によって場面転換が容易になり、物語を複雑に発展させることができたそうだ。

舞台の床を上下に動かす「迫(せ)り」も歌舞伎舞台の特徴のひとつである。建物ごと動かして場面転換をしたり、一部の床を動かすことで登場人物を上下させ、役者の登場にインパクトを持たせることができる。

また、歌舞伎では扮装も特徴的である。デフォルメされた衣裳やかつらが使われ、役者を舞台で映えさせる。例えば、実際にはありえないほど大きな袖の服、血管が浮き出ている様を表現した赤い隈取の化粧、派手な髪型など、主役の力強さを演出するために見た目はすべて誇張される。この誇張によって、ヒーロー役、悪役、娘役などを観客に直観的なイメージで伝えることができる。ストーリーそのものだけでなく、衣裳や役者の姿を見るだけでも十分に楽しめる。

さらに、舞台の左側(下手(しもて))にある黒御簾の長唄や鳴物などの音楽も芝居を盛り上げる効果を持っている。




国立劇場では、若い世代へのアプローチとして毎年6・7月に歌舞伎鑑賞教室や、親子のための鑑賞教室を開いている。これらには演目が始まる前にちょっとした解説が付いており、初めて観る人も歌舞伎を楽しむことができるよう気配りがされている。また、今年3月の公演では、終演後に役者自身がアフタートークをする試みもなされた。これによって役者と観客との距離が縮まり、歌舞伎がより身近なものに感じられた。

歌舞伎の生の舞台をより楽しむには、演目のあらすじをパンフレットなどで読み、大雑把にでも知っておくこと、俳優の顔と名前を知っておくなどの事前の準備があるとなおよい。解説をしてくれるイヤホンガイドを活用するのもよい。

歌舞伎には、文楽や能、狂言由来のものや新歌舞伎、舞踊などさまざまなジャンルがある。そのため、見に行く際にその演目がどのものなのか知っておくのも歌舞伎を楽しむ手段の一つである。

どんどん新しいものを取り入れて発展し続けている歌舞伎。最近では、西洋や江戸川乱歩の作品を題材とした演目もあるそうだ。古き良き伝統と現在の技術やアイデアが融合して進化し続ける歌舞伎。私たちを驚かせてくれる歌舞伎から目が離せない。

 

(柳井あおい)