「受験生なんですけど、できるだけ親元を離れて大学に通学したくありません。私の家から日吉キャンパスに通うことってできますか?」(質問者多数)
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「今回はすごく簡単な依頼だな。ほら、オレが電車とか飛行機の時刻表調べまくって、日吉の1限に間に合うエリアを調べてやったぜ」と、満足気に一枚の日本地図を広げたのは所長のK(理2)。鉄ヲタでもある彼の正確な鉄道ダイヤ調査力に、月曜1限の授業を一緒に受けていた3人の所員たちはある意味ドン引きだ。「てか来週さ、この授業にお前ら地方の実家から本当に通えるか確認してみろよ!みんな通えるエリア内じゃん。オレは出席点落としたくないから日吉の学生寮からゆっくり行くけど、お前ら遅刻して単位落とさないようにな(笑)」といきなりの理不尽な所長命令。仕方なく3人の所員は次週の9時から始まる月曜1限の授業にそれぞれの地元から通うことになったのであった。
そして翌週。実家が仙台のT(商2)は、5時半に起床。Kに言われた通りの仙台駅6時25分発東京行の東北新幹線に何とか乗車。「新幹線でも寝られるし、早起きはつらいけど案外行けるかも」と余裕の表情を浮かべながらの登校である。 長野県の松本出身のS(政2)は4時に起床。Sの指示された交通機関は、松本駅を4時50分に発車する新宿行の高速バスである。「別に電車だけが通学手段なんてことはないもんねー」と、こちらもバスで軽く睡眠をとりながら日吉へと向かう。
もう一人は福岡県の北九州出身のH(経2)。始発の新幹線ですら間に合わない状況で、彼が1限に間に合うために残されていた手段は飛行機だ。4時半に目覚めたHは北九州空港を5時半に離陸する飛行機に搭乗。羽田空港へと一直線に向かう。「空の上からご来光を見ながら通学するのもいいな(笑)」と空の旅をご満悦中の様子だ。
3人ともが8時ごろには首都圏にまでたどり着いた。それぞれのルートを進みながら1限が始まる9時には3人とも日吉キャンパスに「おはよー!」と無事に到着したのであった。 「本当に授業に間にあっちゃったね!あれ、でも当の言い出しっぺのKがまだいなくない?」と日吉在住のKが教室に見当たらない。授業が始まって数分後に「ごっめーん」と所長Kがやってきた。「悪い悪い。髪の毛のセットがなかなか決まらなくて、家出れなかったんだよなー。どう今日のヘアスタイルかっこよくない??」
結局授業にちゃんと通えるかどうかなんて、物理的な壁なのではなく、個人の意識の壁を乗り越えられるかっていうことなのか。ある意味被害者となった3人は心の底でそう思ったのであった。 (常凍)