実家を離れての通学を考えると、まず思いつくのは一人暮らしだろう。しかし、ほかに「寮」という選択肢もある。慶大には共立メンテナンス社と提携して運営する塾生専用寮がある。JR蒲田駅近くにある大森学生寮は改装オープンから4年がたち、初の卒業生が生まれる。その中の一人である中野希美さん(文4)に寮生活についてお話を伺った。
中野さんが大森寮を選んだのは、実家に近い環境で通学してほしいという母親の方針があったからだ。寮は朝夕の食事付きであり、門限や外泊の際は届出が必要である。また、浴室やトイレ、洗濯機などもすべて共用なので、皆が気持ちよく暮らすための規則が多く存在する。
入寮する前までは自由への憧れが強かった。しかし、常に見られているという意識のもと、緊張感を持って生活するのは有意義だったと振り返る。制約を守ることを目標にし、それを達成することで「自分を律して生活ができるという自信を持ち、周囲との信頼関係築くことができた」と話す。
「待っている人がいる」
寮暮らしでよかった点は「帰った時に待っている人がいるところ」だ。帰ると寮長夫妻や友人が出迎えてくれるというのは一人暮らしでは味わえない。
寮で出会った友人を、彼女は「奇妙な存在」と表現した。いつも一緒にいる家族のような存在だけれど、本当の家族ではない。しかし、大事な存在である。寮生と共に生活するなかで良いことはたくさんあるが、意見が衝突するなどの課題が生じることもしばしばだ。それを乗り越えたからこそ生まれる絆がある。
大森寮には留学生がいることも特徴だ。彼らとの交流について、「日本語が上手なので、ほかの寮生と同じ感覚で接していた。だが、考えたことのないような言葉の微妙な違いを聞かれたときは、日本人よりも日本語への理解が深いな、と思った」と語る。留学生と建前抜きで付き合えたことで各国に対する見方が変わり、よい経験となったそうだ。
長い時間を共に過ごした仲間との関係は貴重なものになるはずである。今のうちにしか経験することのできない学生寮での生活。住む場所を決める際の候補として、「学生寮」を新たに加えてみてはどうだろうか。 (浦野志都)