模型を用いて説明をする梅田准教授

人前で何か発表する、大事な試験や試合の前など、日常で緊張や不安を抱える場面は誰にでもあるだろう。緊張の仕組み、なるべく平常心でいる方法などについて、人の心を脳機能でとらえる認知神経科学を研究している梅田聡准教授に話を伺った。

そもそも人はなぜ緊張するのか。人前に立つなど多くの視線を浴びる場合、人は狙われていると感じ、本能的に逃げたいと感じることが大きな理由だ。また、テストのときに感じる緊張は、うまくいくかどうかと未来を予測してしまうことが原因だという。

緊張や不安の感じやすさには個人差があり、脳にある島皮質という部分の活動の敏感さによって決まる。島皮質の活動の仕方は、目を閉じて自分の心音を感じたタイミングを記録し、実際のタイミングと比較する実験で調べることができる。自分の心音を正確に感じられる人ほど、緊張しやすい傾向にあるという。これは脳が心音の変化をすぐに察知し、それを解釈することで不安になるという仕組みだ。

適度な緊張感は成功へのカギに

できれば緊張などしないほうがいつも通りの実力を発揮でき、良い結果が得られるのではないか。多くの人はそう考えるだろう。しかし、「テストが不安だから勉強するように、緊張や不安はモチベーションにつながることもある」と梅田准教授は述べる。適度な緊張感を持ち合わせて、成功へとつなげることが大事なのだ。

ただし、ワーキングメモリという情報を一時的に保持する記憶の容量が、過度な緊張でいっぱいになると良いパフォーマンスは生まれない。この一例として大事なテストの直前に10分間、テストとは全く関係のない家族のことを紙に書かせるという実験がある。結果は普通に受験したグループより、直前に関係のないことを記述したグループの方がテストの出来が良かったという。現在の状況と違うことを考えることはワーキングメモリを悪循環から解き放つため、不安や緊張を軽減させ、平常心に近づく結果になるというわけだ。

また、緊張で腹痛に見舞われるケースも考えられる。その原因は、普段血圧を上げたり心臓の心拍数を増加させたりする交感神経を抑制している副交感神経があまり作用しないためだ。そうすると、消化機能が低下し腹痛になる。

適度な緊張感を持ちつつ、頭の中がネガティブな思考で埋まらないよう整理して、平常心に近い状態にうまくコントロールすることが大事な場面で自分のベストな状態を発揮するために重要だ。一度実践してみたらどうだろうか。 (矢野将行)