先月16日の衆議院議員選挙は、政党が乱立する中、自民党が圧勝した。税制や外交、エネルギー問題などが山積する状況下、新政権に民意はどこまで反映されるのか。そんな中、新しい世論調査が注目を集めている。討論型世論調査だ。
討論型世論調査(deliberative poll、以下DP)とは、無作為抽出による通常の世論調査に加え、参加希望者に議題についての資料を送付し、一か所に集め、3日間(1日の時も2日の時もある)かけて専門家を含めた討論を行い、理解を深めた上で再度調査をするというもの。世界18か国で70回以上行われており、「熟議」の上での民意が知れることが期待される。日本では過去に6回開催され、慶應義塾大学DP研究センターは4回運営し、2回協力してきた。日本での第一人者である同研究センター長の曽根泰教氏にお話を伺った。
若者の政治参加につながる可能性も?
曽根氏によれば、通常の世論調査では回答のしやすさにばらつきがあるという。「内閣支持の是非は簡単に答えられても、年金の賦課方式か積立方式かの是非は、知識がないと答えられない」と曽根氏。DPは、複雑な議題に関して時間を長くかけて国民が考えられる点が通常の世論調査と異なる。「通常の世論調査より深い国民の意識が吸収できる」と語る。
参加者は事前に送付される議題に関する資料で学習したのち、討論フォーラムに参加する。討論フォーラムは、小グループ討論と専門家を交えた全体会議から構成される。小グループ討論での司会者には司会経験者が起用され、参加者の討論にできるだけ介入しないように訓練されているという。「日本人は消極的と言われがちだが、討論しやすい雰囲気を作ることが大事だ」と語る。
昨年8月には、政府主催の「エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査」が開催され、曽根氏は実行委員長を務めた。将来の原発依存度について扱われ、討論結果は政府のエネルギー戦略に反映された。政府の政策決定過程へのDPの利用は世界初だった。
曽根氏は、「原発という重要な議題で、政府は討論結果を非常に尊重してくれた」と話す。報道数も現在までのDPで最多だったという。
また、若年層の政治的無関心について聞かれると、「入り口で拒否をしているケースが多い。若者も一度DPに来ればかなり発言する」と話す。さらに、「きちんと資料を読み、環境が整えば、一般の人も高度な討論ができる」と「国民的議論」の可能性を示唆。塾生にもぜひ参加して欲しいという。
民意を聴取する新しい手法として、討論型世論調査の今後の可能性に期待したい。
(小町栄)