8月下旬に和らいでいた暑さが、ここのところぶり返している。2部リーグ戦前半の主会場となる明大和泉校舎体育館には空調が無い。場内は、まさにサウナ状態。詰め掛けた観衆の団扇の動きも、止まることが無い。待ちに待ったリーグ戦の開幕だが、見る側としてはいきなり2部の「洗礼」を浴びせられた。

さて、リーグ戦開幕にあたって不安だったのが、夏の練習でのケガ人の発生だった。会場の壁にはパンフレット作成後の選手登録変更の詳細が書かれていた。見ると、東海大の主力・嶋田の登録が変更されていた。さらに聞くと、中央大・小野や法政大・神津も試合に出場出来る状態ではないという。所属する部が違うので慶大とはそれ程関係も無いが、これほど各チームの中心選手に故障者が出るシーズンインは珍しい。

慶大の開幕戦には鈴木、小林、田上、岩下、二ノ宮という不動のメンバーが揃っていた。開幕週の相手は近年2部と3部を行き来する状況が続き、春もこれといった活躍を見せなかった国士舘大。ほとんど結果は見えている。慶大がどのような内容のゲームを見せるのか――。そういった「期待感」の中、開幕戦のティップ・オフとなった。

いきなり崩壊したディフェンス

しかし、その期待はじわじわと崩されていった。春シーズン同様に、序盤のオフェンスが不発。国士舘大はインサイドで♯13馬が頑張り得点を稼ぐと、外からは♯4寺嶋、♯5立花、♯10吉満、♯23三村が面白いようにシュートを決めていく。慶大もオフェンスは悪くないが、国士舘大のペースがどうにも落ちないのだ。1Qは29―35。6点のビハインドを背負った。

ただ、まだ私はこの時点ではさほど心配はしていなかった。確かに♯7岩下(2年・芝)がゲームに入り込んでおらずこの時点で3ファールなのは痛かったが、トーナメント同様、失点の多さはチェックが甘くて相手にシュートを打たれ、それが「偶然」に入っているのが要因だと思ったからだ。しかし、2Qも国士舘大のペースは落ちない。むしろ勢いがさらに増したようであった。インサイドの♯13馬が外に出て決めると、今度はそれまでのシューターが積極的に中へ切れ込む。慶大は次第にオフェンスも停滞し、2Q途中には19点もの差がついた。

なぜこういった展開になってしまったのだろうか。佐々木HCは次のように分析する。

「相手のドライブに対してヘルプの意識が強すぎて、パスアウトされて(やられている)。だから、ボールの逆サイドの人が寄り切らないように、特に上が、エルボーの、フリースローラインの人間が寄りすぎているものだから全部フリーになる。あれを少し(何とかしないと)」

つまり速攻に対するディフェンス時、ボールマンを意識するあまり、フリーのスペースや選手を発生させ、アシストパスをそのフリー選手に出されてしまう、という具合だ。象徴的な数字がある。この試合、国士舘大のアシストはなんと29。仮に全てが2Pシュートへのアシストだったとしても、これにより少なくとも 58点を与えていることになる。本来の慶大なら悪くてもこの数字を3分の2、通常なら3分の1程度にまで抑えられたはずだ。

加えて悪かったのが、選手自身の動き。リバウンドの際、ボールの落下地点に誰もいないなど、特にインサイドで顕著だった。選手を悩ませたのは最初に述べた暑さだろう。♯7岩下に関しては、翌日のゲームでは暑さのあまりコートに倒れこむ場面があったほど。佐々木HCも「熱中症かも」と話していた。

また、単純に国士舘大の実力が予想以上だったことも苦戦の要因だ。主力選手の3人は福井の強豪・北陸高校出身。♯10小林(3年)や♯15酒井(2年)と同じ福岡大附大濠出身者もいる。全国の舞台で経験を積んだ相手ゆえ、乗せれば恐い存在ではあるのだ。ただ、これらを差し引いても内容が悪いことに変わりは無いが。

後半に入ると、慶大が猛チャージを始める。♯16二ノ宮(2年・京北)がフリースローを2本成功させると、♯10小林も続く。一気に差をつめ追いつき、さらに♯15酒井の3Pなどでリードを一時は7点に広げた。しかし、ここでまた国士舘大の3Pが続き、86―83の慶大 3点リードで最終Qに入った。

国士舘大の勢いは衰えず、3Pを決め続ける。リードは無くなり、慶大の5~10点のビハインドで残り時間は少なくなっていった。

4年生の意地……アップセットを阻止

チームを土壇場で救ったのは、4年生だった。ファールゲームを仕掛けて慶大は試合時間残り10秒で2点差にまでこぎつけた。ここで国士舘大のサイドスローイン。スローインからのパス回しを♯4鈴木(4年・仙台二)がカットした。♯4鈴木はやや体勢を崩したが何とかレイアップに持ち込み、土壇場で114―114とした。

「狙ってたので。『よっしゃ!』って感じでした」(鈴木)。

直後にブザー。試合は延長戦に突入した。
 
延長戦は一進一退の攻防となった。♯16二ノ宮が3Pを決めると、♯6青砥(4年・松江東)のファールで相手のフリースローに。♯4寺嶋が2本とも決めて1 点差。しかし慶大は「自分のポジションからいって3Pがないと厳しいと思い、練習でも心がけていた」と話す♯4鈴木が、今度は3Pを決めた。これで4点差に離す。国士舘大はこのままでは終われない。♯4鈴木のファールで得たフリースローを♯10吉満が1本決める。さらに、インサイドで♯13馬が頑張って得点し、点差を1点差にした。すると、今度は国士舘大♯10吉満が♯6青砥にファール。♯6青砥のフリースローとなった。

青砥のフリースロー。観客には不安げな表情もある。昨年のリーグ戦、青砥はことごとくフリースローを外した。全部で27本のフリースローで、成功は10本。しかし、青砥はこの日のフリースローはあっさり2本とも決めた。

「春に、ボールの持ち方を少し変えて。最近は練習中もほとんど外してなかったですね。調子良かったので。フリースローは入るかな、と思ってました。期待通りでした」(青砥)

残り時間は僅か。どうしても3Pを打ちたい国士舘大だが、慶大の必死のディフェンスを前にシュートに持ち込めない。待ちに待った試合終了のブザーが鳴った。最後は経験の差で、慶大が押し切った形となった。

佐々木HCは「こういうところで頑張らないと4年間の意味が無いですね。まぁ、4年生は頑張って当然です」と話すが、決して出場機会の多くない4年生にとって、緊迫した場面でゲームに出場していくのは難しいことだろう。

「ホントに難しいんですよね(苦笑)。鈴木はスタメンで出ていてプレーで引っ張っていけると思うんですけど、僕と竹内はなかなか試合に出れなくて……。そんな中で、練習で出来るのは声を出したりとか、例えば3メンでも全速力で、コートの端から端まで走るとか、他の選手があんまりやってないことをメリハリをつけて、厳しくてもやるっていう。テンションを上げたい時に声を出してチームを鼓舞するっていうことが出来るように、夏はやってきました」(青砥)

青砥は1年生の時に足に重傷を負い、最初の1年間を棒に振った。2年春は出場機会が増えたが、世界バスケが終了し竹内公輔(現・アイシン)がチームに戻るとベンチを暖める機会が多くなった。だからこそ、だろう。4年生として、チームを背負う責任感は強い。

「去年2部に落ちて代が替わって、今年は『勝利至上』というスローガンで、リーグは全勝で行くと決めていて。今年からチームをAチームとBチームに分けたりして、そういう苦渋の決断をしながらやってきたんですけど、それは負けられないと思っていたので。個人として出てるんじゃなくて50人の部員の代表として出てるっていう感じて、自分に出来ることを精一杯やるつもりで。僕も鈴木も、それがいい結果につながったかなと思っています」(青砥)

今後も、この日のように厳しい場面が増えるだろう。その時に必要になるのは経験を積んだ4年生の力。それが確認できたことは、この日唯一の収穫と言える。

リーグ戦は、一気に混戦模様に


それでも、チーム全体としてみれば内容が悪かったことは素直に反省されるべきだ。

翌日曜日の2戦目は前日より内容は改善されたものの、ほとんどの時間でリードは保つがなかなか突き放せない展開が続いた。最後は意地を見せて18点差をつけて逃げ切ったが、90失点。まだまだディフェンスは本調子ではない。今年の2部は例年に無い混戦と目されているが、それでも大方の予想としては慶大の1位通過は有力視されていた。慶大としてはこの開幕週で圧勝し、「慶大、強し」を印象付けたかったところだが、逆に2部の混戦ぶりを象徴してしまうこととなってしまった。慶大ファンも、期待よりも不安の方が大きくなってしまったのではないか。

次週の相手は順天堂大。「シューター軍団」の異名を持ち、インサイドにも力がある。かつて1部に所属したものの、国士舘大同様近年は2部と3部を行き来する状況だ。しかし、トーナメントでは組み合わせに恵まれたものの2部で慶大のライバルと目される明大に勝利して6位に入った。決して侮れない。

2戦目の終盤、会場付近は雷雨に見舞われた。まるで、今後の戦いを暗示するかのように。

(2008年9月8日更新)

文・写真 羽原隆森
取材 羽原隆森、阪本梨紗子、金武幸宏