毎日新聞社主筆の岸井成格氏が先月16日、日吉キャンパス来往舎でメディア・コミュニケーション研究所が主催した公開講座「歴史の転換と混迷政治―文明の岐路に立つ世界と日本」に講師として招かれた。岸井氏は、主筆の経験や分析をもとに、日本の政局から世界情勢まで多岐に渡る内容について自身の考えを語った。また、領土問題に関しては、日本外交の問題点を指摘した上で、世界におけるアジア地域の領土問題の重要性を示唆した。 (小町栄)
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岸井氏は、毎日新聞社主筆の立場を踏まえ、現在の日本の政局や世界情勢、領土問題などについて自身の考えを述べた。
「現在の世の中は非常に速いスピードで変化しており、まさに文明の岐路に立っている」と指摘。現代を「ニュースをただ見るだけではなく、その背景に存在するものを読み取ることが大切な時代」とした。
また、「失われた20年」について、「20年間で日本ほど総理大臣の交代回数が多い国は先進国中には存在しない」とした上で、「バブル経済の崩壊から現在までデフレ不況や超円高、株安に見舞われたまま、長いトンネルから抜け出せない」と日本が有効な施策を打ち出せていないと批評した。
今年の日本の政局に関しては、「社会保障と税の一体改革に関する民・自・公の三党合意が一つの潮目となった」と分析。続けて、民主党代表選挙・自民党総裁選挙について言及し、民主党の野田首相再選を、「民主党を歴史的に支持してきた旧民社党系のいわゆる主流派が支えた」とした。
また、決選投票で逆転勝利した自民党の安倍新総裁の勝因に関して、首相時代の改憲や集団的自衛権を強調した発言と関連性があるとし、「総裁選と同時期に動きのあった領土問題が当選の追い風となった」と述べた。
「国民としての選択迫られる」
さらに岸井氏は、オスプレイ配備問題やTPP参加問題、原発問題などを「日本の将来を決定しかねない、歴史的にも国際的にも重要な懸案事項である」と指摘。また、それら諸問題に対する各新聞社の社論が明白に分かれていることを指摘した上で、現代を「国民としての選択が迫られているという認識が必要な時代」であるとした。
尖閣諸島・竹島・北方領土をめぐる中・韓・露との領土問題については、「歴史上、他国と交渉して領土問題を解決した経験のない国は日本だけ」と話し、それによる日本の外交力の欠如を指摘した。さらに、憲法9条の存在を是としながらも、「日本は、問題解決に武力を行使しない平和外交を徹底しすぎたことで時代の変化についていけなくなった」と語った。また、「21世紀の成長センターはアジア・太平洋地域である」ため、アジア地域の領土問題は世界的にも影響があると述べた。