慶大理工学部はどのような未来を創っていきたいのか。この連載では各教授の研究内容を中心に、それぞれが創りたい未来を尋ねてきた。今回お話を伺ったのは、理工学部の「トップ」である青山藤詞郎理工学部長。
システムデザイン工学科で「先端生産科学」という分野を研究し、具体的な研究課題として、超音波振動を応用した、タッチパネルなどのガラスやCFRPなどの複合材料の精密加工、新しい機能性材料の開発などを行う。研究者としての顔も持ちながら学部をけん引する青山学部長は、理工学部の現在をどう考えるのか。
慶大理工学部の最大の特徴は、学門制(1年次に学部生全員が共通基礎教育を受けてから、2年次に学科振り分けを行う)である。大学側の狙いは、「他分野との人脈があることが、研究を始めた時に大きな力となる」と青山学部長が話すように、1年次に作った人脈を後の研究生活で生かさせる点にある。
再来年の2014年、慶大理工学部は創立75年を迎え、75年記念事業を行うことが決定している。長い歴史を持つ理工学部だが、「いま現在は、まだまだ世界トップレベルの研究拠点であるとは言い難い」と青山学部長は厳しい評価を下す。
世界最高峰の研究拠点めざす 創立75年記念事業を語る
その上で、来たる75年記念事業を通し、「慶大理工学部を世界トップレベルの理工学教育研究拠点にしていく」と意気込む。具体的な内容は、「国際人材育成基金の設立」「イノベーションファウンダリーの設立」「基礎科学・基盤工学インスティテュートの設立」という3つの柱だ。 「国際人材育成基金」によって海外に行きたいという意欲を持つ塾生を積極的にサポートし、多くの学生に海外での教育・研究経験を積ませる。そして、「イノベーションファウンダリーの設立」では、企業とともに製品開発などに取り組むなど産学連携の研究拠点を生み出す。さらに、「基礎科学・基盤工学インスティテュート」を設立し、基礎科学・基盤工学の分野で、慶應義塾発信の世界をリードする研究分野を開拓し、世界的な科学者・研究者を育成する。創立75年記念事業では、このように、研究者である教員と、学生の両者をサポートすることで理工学部を世界トップレベルまで引き上げることを目指しているのだ。
さらに青山教授によれば、現在学部を挙げて「世界に通じる人材の育成」を目標に掲げ教育を行うことに注力しているという。前回の連載でも述べた、ダブルディグリー制度などの留学制度により、学生に海外での経験を積んでもらうこともその一環だ。
また、理工学部での学問を通して「自分で問題を見つけ、それを自分で解決する」というスキルを身につけることを学生に求めている。これは建学当初からの教育方針の一つであり、福澤諭吉の「実学」の精神にのっとったものだ。自分で気になる問題を発見し、研究を通してその問題を解決する力は、国内だけでなく世界に出ても通用するものなのではないか。
「自分の頭で考えようという意欲を持つ学生はぜひ慶大理工学部に来てほしい」と語る青山学部長。世界で活躍する研究者やエンジニアになる、という夢を叶えられる環境が完全に整っているとはまだ言えないのかもしれない。しかし、今回の75年記念事業で目指すグローバルな教育・研究環境の中で、慶大理工学部は世界トップレベルの教育・研究拠点の実現へ向けて、大きく前進するに違いない。いわばその「リーダー」である青山学部長のお話からは、それを可能にさせる熱い想いがくみ取れた。
(小林知弘)