今冬の節電は、夏より一段と厳しいものになるという。安定した電力供給源を確保できないかぎり、節電方法は模索され続けるだろう。
そこで改めて、その意義が問われるのが電気モーターを動力源とする電気自動車だ。ハイブリッドカーと異なり、電気のみで走る電気自動車は活路を見出すことはできるのか。
「節電社会にこそ電気自動車を導入すべき」と唱えるのは、慶應義塾大学電気自動車研究室の清水浩教授だ。清水教授は最高時速370㌔の電気自動車「Eliica」の開発や、すでに公道試乗会も行っているEVバスの開発にかかわった。そして今回、「SIM―LEI」という電気自動車を開発、燃費をリッター換算すると70㌔という驚異的な省燃費を実現した。
「電気自動車の利点は原理、構造がシンプルで効率がいいこと」と清水教授は語る。電気自動車の燃費はリッター換算で70㌔に対し、ガソリン乗用車はリッター15㌔ほどと燃料消費は約5分の1だ。仮に、現在走っているすべての車が電気自動車になると仮定すると、日本全体での電力消費量は10%ほど増えることになる。
しかし、節電で重要なことは、ピーク時に供給を超える電気を使わないことだ。この程度の増加量なら、電気利用者の少ない深夜に充電を行うことを前提にすれば、現状で十分に賄うことができる。さらに、石油消費の約3分の1を占めていた自動車用燃料が不必要になり、その一部を発電用にすることが可能だ。電気自動車がガソリン自動車にとって代われば、むしろ電力供給は増加することになるのだ。
もう一つのポイントとして、電気自動車は家庭用巨大充電施設にもなることが挙げられる。「SIM―LEI」に搭載されている蓄電池を使えば、一般家庭なら非常時でも2日間生活することができる。今回の震災においても、被災地では電気自動車の蓄電機能を利用して、携帯電話の充電から電気ポットの使用までできたという。
電気自動車はガソリン自動車に代わっていくのか。清水教授は人々の車の購買基準として、加速・車室の広さ・乗り心地をあげた。「SIM―LEI」は時速100㌔に4・8秒で到達する。これは高級スポーツカーと比べても遜色ないほどだ。
車内の広さについても全く問題ない。ガソリン車は多くの場合、ボンネット内にエンジンを置くが、電気自動車はそのエンジンがない。さらに、「SIM―LEI」は4輪それぞれにモーターを搭載するインホイールモーター形式を採用するなど、駆動系をすべて車の床下に収納している。車室はフルフラットなため、十分なスペースを確保しているし、また振動も少ないため乗り心地もいい。
性能も申し分なく、加速、広さ、乗り心地と3拍子そろった「SIM―LEI」だが、「年間10万台製造するようになってからが本当のスタート」と清水教授は話す。量産化が進めば、本体価格も落ち着いてくる。1万台では500万円になるとみられる価格も、10万台売れれば250万円にまで値下げ可能だ。技術は効率がよく、簡単で、使いやすいものに進化していくという信念の下、よりシンプルなものを追求し、電気自動車による省エネ社会を目指す。 (堀内将大)