春が来ると毎年悩む授業の履修選択。学年が上がろうとも、生徒が頭を抱えることはどうやら変わらないらしい。新たな気持ちで新学期を迎えたはいいものの、熟考せずに時間割を決め、後で悲鳴をあげる「四月病」に怯えながら履修申告をする。
しかし慶大内にある授業は楽、「エグい」だけでは言い表せないユニークな試みをしているものも多くあるのだ。大学生の本分は勉学と言われる。大学生活というモラトリアムの期間をただ無為に過ごしても良いのだろうか。
今回を第1回目とするこの連載では、慶大内の「おもしろ授業」を教授目線・生徒目線で紹介し、授業を中心とした大学生活を提言したい。
(米田円)
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桜舞い散る4月。この時期になると履修決めに四苦八苦する人も多いのではないだろうか。分厚いシラバスを読む気になれず、楽だと言われる授業をなんとなく申告する。しかし、果たして口コミされる授業だけが良い授業といえるのか。
今回は昨年度法学部政治学科の人文科学特論において寿地区での活動を通して独居老人の方と交流を図った、「横浜市寿地区物語プロジェクト」について武藤浩史教授と横山千晶教授、そして受講生の杉浦翔太氏(法3)にお話を伺った。
―開講のきっかけは。
横山「近年、大学教育において社会連携と地域貢献が求められています。学生も市民意識を持ち、社会問題を解決していく人材にならなければならない。横浜市の寿地区は独居老人が多く、この問題を体験的に考えることが学生のためになると思い、授業を開講しました」。
―授業内容は。
武藤「まず寿地区で簡易宿泊所をホテルに改装し、地域活性化を図っている社会企業家の岡部友彦さんと連携しました。
大学の拠点『カドベヤ』を作ると同時にホームレスの自立支援をしているNPO法人『さなぎ達』とも連携し、授業で独居老人の方とお話をすることで学ぶ人間関係の大切さを通して、社会や国の問題を実感し、生徒たちに自分自身を見つめて貰いました」。
横山「寿地区に住む独居老人の方とお話をしたり、散歩をしたりして交流を深めました。そのあと生徒が気持ちをため込まないようにするため、必ず『振り返り』をしてもらいました。それに加えて、後期はリサーチを組み込んで寿地区の実像を客観的見地から考えることもしました」。
―授業を終えて。
横山「生徒たちは、普通の生活を送っていては出会えないような人たちと会って、話をして、知り合いになった。自分と違う境遇の人たちがその根本においては、自分となんら変わりのない一個の人間であることを実感できた良い経験になったのではないかと思います。私たち教員も、学生の心理的ケアやキャンパス外でのリスク管理など、様々な課題に直面して、良い経験になりました」。
武藤「現代社会は無縁社会と呼ばれるが、それは家族関係に囚われた言い方です。無縁社会は家族以外の他人、異なる境遇の人と人間関係を構築し、相互理解を深めるチャンスであると思いました」。
―今後の展望は。
横山「昨年度の授業は1、2年生が主体だった。今年度は法学部政治学科の人文科学副専攻のゼミを通して3、4年生にも繋げたい」。
―慶大生に求めること。
武藤「慶大生は潜在的に抜きん出たコミュニケーション能力を秘めています。そのすばらしい資質をビジネスだけでなくもっと幅広い分野に役立てて欲しいです」。
―ありがとうございました。
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杉浦氏へ
―受講のきっかけは。
杉浦「シラバスを読んでいた時にたまたま目に留まった。フィールドワークという他とは毛並みの違う授業に興味を持ちました」。
―授業の感想は。
「とてもよかったです。受講者は10人くらいで、福祉やボランティアに興味のある人から僕のように好奇心で受講している人までさまざまでした。生徒2人でペアを組んで1人の独居老人の方と交流しました。初めは会話が続ないといった苦労もありましたが、だんだん自分の祖父母と話すようにお話出来るようになりました。相手の方は僕たちのような若者と話すことによって意欲が湧くとおっしゃってくださり、嬉しかったです」。
―授業によって得られたものは。
「まったく境遇の違う他者と話すことによって自分自身を知ることができた。座学とは違うフィールドワークなりの学びがあり有意義でした。授業で知り合った方々との交流は今でも続いており、これからもこの活動に関われたらと思います」。
―ありがとうございました。