第144回芥川賞・直木賞(日本文化振興会主催)の選考会が先月17日に東京・築地の新喜楽で開かれ、慶應義塾大学大学院前期博士課程在籍の朝吹真理子氏による『きことわ』(『新潮』昨年9月号)が芥川賞に決まった。

朝吹氏は文化人一家出身で、大叔母は『悲しみよこんにちは』など、サガンの翻訳で著名な朝吹登水子氏、父は詩人で慶大法学部教授を務めている朝吹亮二氏。昨年、デビュー作『流跡』でBunkamura ドゥマゴ文学賞を最年少で受賞。芥川賞受賞作は3作目となる。

受賞作『きことわ』は、神奈川・葉山の別荘を舞台に幼馴染の貴子(きこ)と永遠子(とわこ)が25年ぶりに再会する様子を過去の回想と現在の心理が交錯する文体で描いたもの。

芥川賞選考委員の島田雅彦氏は「初回の投票で多数の票を獲得し、異論なく受賞が決まった。時間軸の操作である記憶、歴史、過去の問題を卓越した技術で処理している。方法論的にもずば抜けたポテンシャルのある作家だ。プルースト的だという意見も出た」と高く評価した。

朝吹氏は芥川賞受賞を受け、日本文化振興会に感謝の意を表した後、「大変嬉しい気持ちと畏怖との両方の気持ちがないま

ぜになっている状態」と神妙な表情で喜びを語った。また「いつも作品を読者である『あなた』へ届ける手紙のように思っている」と自身の作品に対する思いも述べた。