緑豊かで、温泉地としても知られる長野県上田市。その郊外の丘に街を一望するかたちで本拠地を構えるのが日置電機(HIOKI)だ。
1935年の創業以来、一貫して電気計測器の開発、生産、販売・サービスに取り組むHIOKIは、常にその技術力の高さを持ち味としてきた。各種メーカーの生産現場やインフラ整備にとって不可欠な電気計測器は、産業のマザーツールとして日本の「モノづくり」を下支えしている。
付加価値の高い商品づくりを可能とするのは、セル生産と呼ばれるHIOKI独自の生産方式。1つの商品の製造プロセスを1人の担当者が一貫して行うことで、多品種少量生産を実現している。
加えてHIOKIの本社工場は、開発、生産、販売・サービスすべての機能が集まる一棟完結型。地方ならではの広大な土地を活かした開発環境が、顧客のニーズへの柔軟な対応を可能にしている。サプライチェーンの細分化やアウトソーシングが進む現代において、そうしたトレンドに流されないビジネスモデルこそが、HOKIの競争力につながっていると言えるだろう。
現在では、環境・新エネルギー分野も得意分野の一つである。次世代送電網(スマートグリッド)の推進や電気自動車(EV)、ソーラー発電関連でもその存在感を発揮し、あくまで電気計測器をHIOKIの中核として位置づけながら、ビジネスフィールドの拡大を図る。
* * *
2006年、慶大経済学部を卒業し、HIOKIに入社した高田博之さん。風通しの良い雰囲気と、社内の人と人とのつながりを大切にする社風に魅かれ、入社を決めた。「あまり大規模な会社よりは、誰がどんな仕事をしているのか一目で分かるような会社に興味があった」
人間性の尊重を企業理念に掲げるHIOKIは人材育成にも力を入れており、豊富な研修プログラムが用意されている。本社には、独身寮「日置ロッジ」やスポーツ施設(野球場・ランニングコース)も併設されており、とても働きやすい環境が整っているという。
地方企業への就職、いわゆるUターン・Iターン就職に関して高田さんは次のように語る。「同期で地方就職が多かったこともあり、見知らぬ土地に対する抵抗はなかった。自然豊かな場所でゆったりとした生活を送りながら仕事ができるという点が魅力的だと思った」
大学時代、メディアサークルで編集に携わっていた経験を活かし、現在は広報の仕事を行っている。企業のPR活動を通してブランド価値の向上に貢献できる広報業務には、とてもやりがいを感じるという。
* * *
雇用環境の改善が遅れる中、多くの学生は都市部の大企業への就職を志望するという。しかし効率よく就職活動を進めるには、より広い視野を持つことが重要だろう。その1つの手段として、世界をフィールドに活躍できる地方の企業がある。
(金武幸宏)