ベンチャーキャピタリスト。それは年金や大学の基金を運用し、スタートアップ企業などに投資を行う職業である。投資先が上場したり大企業に買収されたりなどイグジットを迎えた際に投資した資金を回収し、成長した分の利益を得るという仕組みだ。今回の記事では慶大出身で、ベンチャーキャピタリストとして活躍している佐俣アンリさんに職業やキャリアについて話を聞いた。

 

  • ベンチャーキャピタリストという職業

 

ベンチャーキャピタリストという仕事の魅力はどのようなものか。

佐俣さんはこう話す。

「世の中の人があまり注目していないけれど、素晴らしい可能性を秘めているもの。例えば新しい技術や、若い才能を持った人や、人目を浴びないアートなど。そういった、みんなはあまり気づいていないけど、それがあったほうが世界が素敵になったり平和になったりするようなものを、最初に信じられること。そして伴走できることがこの仕事の素晴らしいところ」「世の中をガラッと変えることはとても難しいことだけど、世の中の人々の生活が少しでも豊かにするものを作ることができると、この仕事って面白いなと感じる」

佐俣さんはユーチューバーという言葉がなく、テレビの力が非常に強かった10年以上前からユーチューバーやインフルエンサーのマネジメント・マーケティングを手がける「UUUM」に、電動キックボードについての法律が整備されていないときから「LUUP」に、投資してきた。いまや、ユーチューバーは子供のなりたい職業ランキング上位に食い込む、子供が夢見る職業となった。また、「LUUP」も多くの人にとって欠かせない移動手段となっている。自分が投資した事業が大きな成長を果たし、社会を変えていく。昔から応援しているバンドが人気を博し、大きなスタジアムでライブを開催する感覚に似ている。古参のファンのように、なんだか誇らしい気持ちになるという。現在でも佐俣さんは「世界平和」を目指し、「核融合発電」の技術開発に投資をしている。「世界中の戦争はエネルギーの奪い合いが火種となっている。核融合発電によって、海水から発電することができるようになれば、戦争は遠のくのではないかと思う」核融合は非常に難しい技術であるが、コロナ禍のワクチン開発のようなイノベーションが起こり世界を大きく変えるかもしれない。世界を平和な状態に大きく近づけるかもしれない。その夢を追い、現在も佐俣さんは挑戦をし続けている。

「こんなに楽しくてワクワクする仕事はない」そう話す佐俣さんの言葉は、心の底から漏れ出たものに感じられた。

 

  • 大企業と起業・スタートアップ

 

佐俣さんはリクルートに勤められたのち、ベンチャーキャピタリストとしての活動を始めた。大企業と起業・スタートアップ、両方を知る佐俣さんにキャリア選択についての考え方を伺った。

「私は非常に保守的な人間で、起業する自信がなかったし、怖かったので大企業に入った。だから、大企業に入ることを全く否定はしない」

「私の場合はやりたいことがあったから、リクルートをやめる決断をしたが、迷っているなら大企業に行けばいい。本当に起業する人間は、周りの話を無視して、勝手に突っ走る。悩んでいる人は、今の時代、本当にどちらが安全かなんてわからないけれど、自分にとって安全だと思うほうに進んでもいいと思う」

どちらの選択肢も、優劣があるわけではなく、自分で十分に思考したうえで、自分に適した選択をするべきという。

 

  • 自分の「熱」を見つけるために

 

佐俣さんは著書『僕は君の「熱」に投資しよう』において、人生で一番大切なことは「熱」であると述べている。では、自分の中に眠る熱、そしてその向ける場所はどのようにして見つければよいのだろうか。

佐俣さんは言う。「大概の学生は自分のやりたいこと、自分が何に情熱を持てるのかなんてわからない。いろいろなものに触れてみるしかない」

佐俣さんは、学生時代高校から所属していたボート部での選手としての道がケガで絶たれた。

それからは、写真を撮る仕事をしたり、卒業アルバム委員会や全塾協議会に所属したり、就活において幅広い企業を受けてみたりと、色々な場所に足を運び、さまざまな経験を積み、社会を知り、自分の情熱の向け先を探していった。その中で、ベンチャーキャピタリストという仕事に出会い、その「かっこよさ」にひきつけられたのだ。

慶大生にも「いろいろなものに触れる量を増やしてほしい」という。

「孫正義さんの『登る山が見つかった人間は幸せである』という言葉が本当に大切。自分の人生を掛けられるもの、情熱を注げるものが見つかっている人は幸せだと色んな人に会っていて感じる。だから、自分が登るべき山を見つけるために、いろいろなことをやってみてほしい。

おすすめは、恋愛、読書、筋トレだけど、他にも就活や勉強、バイトやサークル、どんなことでもいい。自分が登る山が決まったうえで、結果的に大企業に就職することは何も悪いことじゃない。

自分はリクルートで働いた2年半は楽しかったが、自分の登る山とは全く関係のない時間だったため後悔もある。自分の登るべき山、情熱をささげる場所を探しに行ってほしいし、見つかっているならゆっくりでいいから登っていってほしい」

 

小塩啓太郎