2024年本屋大賞翻訳小説部門第1位、韓国で25万部突破のベストセラー小説『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』。本書は書店を舞台に、人と人との繋がりを描いた心温まる一冊だ。一方で、人間の繊細な部分にも触れ、読者に自身の生活を振り返るきっかけを与えてくれるだろう。

 

あらすじ

ソウル市内の住宅街にひっそりと佇む『ヒュナム洞書店』。かつて会社員だったヨンジュは、心の中で何かを失ったように感じ、追いつめられたかのようにこの小さな書店を立ち上げた。書店には、さまざまな悩みを抱えた人々が訪れる。就職活動に失敗し、バリスタとして働くミンジュン、夫への不満を抱えるコーヒー業者のジミ、無気力な高校生ミンチョルとその母ミンチョルオンマ、そしてネットで炎上してしまった作家のスンウなど。それぞれに悩みを抱えた普通の人々が、ヒュナム洞書店で出会い、書店を通じて少しずつ交流を深め、心が癒されていく。『ヒュナム洞書店』は単なる書店ではなく、訪れる人々にとって「心の拠り所」となる特別な場所なのだ。

 

本書は、登場人物ごとの短い物語のまとまりで読み始められ、非常に読みやすい構成となっている。しかし、本を読み進めるうちに登場人物たちの小さな繋がりが生まれ、ひとつの長編小説としてしっかりとまとまっていく。この本の最大の魅力は、本屋という“場”から感じられる温かさだと感じた。本屋特有の雰囲気と人との繋がりの温かさによって、読んでいるとまるでその場にいるかのような気持ちになれる。300ページ以上ある本書だが、その居心地の良さに引き込まれ、つい読み進めてしまう。本屋の温もりと登場人物たちの心地よい距離感により、ゆったりとした軽やかな気持ちで読める一冊だ。

 

特に忙しい学生生活の中で、心に余裕を持ちたいと感じている人におすすめできる。韓国を舞台にしながらも、社会や家族との関係に悩む部分は、人間の本質として共感できる点が多い。生活の中で、答えが簡単に出ないことはしばしばあるが、「それでもいい」と感じさせてくれるような、心が軽くなる一冊だ。

 

翻訳小説ということで、今までそのジャンルに触れたことがない人もいるかもしれない。しかし、他国の著者が描く世界には、自身の世界との違いや共通点を見つける楽しさがあり、深い感動を与えてくれるだろう。本書は、それを強く感じながらも、広い気持ちで読めるため、翻訳小説を初めて読む人にも手に取りやすい一冊となっている。

 

最後に、ヒュナム洞の“ヒュ”は“休”という漢字を当てるそうだ。この本を読んで、忙しい学生生活の中で自身に休みを与えてみてはいかがだろうか。

 

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柿崎愛葉