能條桃子(のうじょう・ももこ)さん

【プロフィール】

1998年生まれ。2019年、若者の投票率が80%を超えるデンマークに留学し、若い世代の政治参加を促進するNO YOUTH NO JAPANを設立。

Instagramで選挙や政治、社会の発信活動(現在フォロワー約11万人)をはじめ、若者が声を届けその声が響く社会を目指して、アドボカシー活動、自治体・企業・シンクタンクとの協働などを展開中。2022年、政治分野のジェンダーギャップ解消を目指し20代・30代の地方選挙への立候補を呼びかけ一緒に支援するムーブメントFIFTYS PROJECTを行う一般社団法人NewSceneを設立。慶應義塾大学院経済学研究科修士卒。テレビ朝日 大下容子!ワイドスクランブル、TBSラジオsession、東京MX ライブジャンクション出演中。TIME誌の次世代の100人 #TIME100NEXT 2022選出。

 

 10月27日に行われた衆議院選挙では、戦後三番目に低い投票率を記録した。特に若者の投票率は四割程度と低水準だった。

 慶大経済学部卒の能條桃子さんは、現在若者の政治参加を促す活動に取り組む。在学時に抱いた問題意識は何か。政治へのタブー視を解消する方法とは。

 

「NO YOUTH NO JAPAN」若者の政治参加促す

――現在の活動について教えてください。

「NO YOUTH NO JAPAN」では主にInstagram上で選挙や政治、社会問題について分かりやすく発信しています。同時に、被選挙権年齢の引き下げ運動もしています。日本では現在、日本国籍を持つ18歳以上の人が投票権を持ちます。一方、立候補できる年齢は25、30歳と高年齢です。若い世代を直接代表として議会に送り込みたいと考え、訴訟や国会議員へのロビー活動をしています。

「FIFTYS PROJECT」は、政治分野のジェンダーギャップ解消を目指す活動です。地方選挙の場で、20代・30代の女性(トランス女性含む)やノンバイナリーの候補者を支援しています。

――2024年10月の衆議院選挙での成果を教えてください。

「被選挙権年齢の引き下げ」を公約に掲げてもらえるように、各政党に呼びかけをしていました。今回は公明党の政策に入れてもらうことができました。前進したと考えています。

――2024年10月の衆議院選挙の当選者は、女性が過去最高の15.7%でした。結果についてどのようにお考えですか。

過去最高でこの数字、というのは少なすぎると思います。現職の国会議員が高齢で引退する時期なので、空いた枠にどれだけ女性を入れられるか、という議論がありますが、それも進んでいない。

各政党に女性議員を増やすことを義務付けるなど、実効性を持つ方策が必要です。

 

「動かなければ変わらない」政治参加への道

――大学生時代、デンマークに留学したそうですが、当時はどのような問題意識がありましたか。

2017年、大学二年生の秋ごろ、ちょうど同じように衆議院選挙がありました。その頃から社会の格差や生き辛さに関心がありました。政治は生活に直結しています。無関心でい続けたら世の中は変わらない。だから、選挙のボランティアを始めました。

ボランティアでは、高齢者や中高年くらいの年代の人たちばかり見かけました。だから、政治家がどんな政策をアピールするか考えたとき、若者向けの優先順位が低くなるのは仕方ないと思いました。

また、ボランティアの参加について、周りの友達には「意識高いね」「宗教入ったの?」など、線を引かれるような反応を受けました。

若者の投票率の低さ、政治参加へのマイナスな態度を変えるにはどうすればよいか、考えるようになりました。

そのころある北欧研究者が若者の投票率が高い国を紹介しているのを見かけました。自分も見てみたいと思い、デンマークに留学しました。

――日本とデンマークの違いは。

デンマークの若者は政治に詳しいです。みんな投票先とその理由を言える。政治はタブー視されておらず、学校で自分の応援する候補者のチラシを配っている人もいました。

友達の友達が20代前半で選挙に立候補していることもありました。政治参加という時、日本では当たり前に投票の話だけが上がりますが、立候補の選択もあるのが新鮮でした。

――能條さんはジェンダーギャップ是正にかかわる活動もされています。慶大時代、ジェンダー平等というトピックに関してはどのようにお考えでしたか。

ジェンダー平等にきちんと触れだしたのは留学してからです。慶大時代、女性学の授業を受けていましたが、構造的な差別や不均衡にあまりピンと来てはいませんでした。しかし、慶大には、ジェンダー平等に関する問題は多々あると感じてきました。

当時の経済学部は女子が二割程度という状況で「クオーター制で女子学生の割合を増やすべきか否か」という議論がありました。

一見、受験の傾向として、女子の方が受かる人が少ないように見えますし、勉強の努力の問題なら、割合に問題はないように思われます。

しかし、実は慶應は幼稚舎から男子2、女子1の割合で取っています。学部への内部進学者は必然的に男性の割合が高くなる。もともと男性のほうに教育機会を多く設けている仕組みがあるので、平等とは言い難いですよね。三田会なども、男性中心の運営が目立ちます。

 

政治的な話題、「無理しなくても大丈夫」

――政治的な話題に対し「難しくて分からない」と敬遠される風潮があります。どう変えていくべきでしょうか。

自分はまず、政治の話から入らないことにしています。例えば、私の周りには結婚している異性愛者の女性が多い。「男性は女性の姓の変更を当たり前だと思っている」という話をよく聞きます。政治ではなく日常の話として、ジェンダーギャップの問題が出てくる。そのようなタイミングで、自分の活動を伝えることがあります。「絶対に選挙に行きたくない」という人はあまりいません。身近なトピックから始めるのがいいと思います。

政治活動を立ち上げたい、と考えている場合、無理に一番近い人たちから誘う必要はありません。SNSなどですでに関心を持っている人を少しずつ集めることがいいと思います。若い人は政治に興味がない、と言われますが、30人に1人、つまりクラスに1人くらいは政治に関心を持った人がいるものです。自分自身は、留学先の仲間と活動を始めました。

――私はトランスジェンダーなのですが、人口の割合として非常に少ないマイノリティとして、マジョリティであるシスジェンダーの人々に自身の人権問題を語ることにハードルを感じます。トランスジェンダーに限らず、マイノリティ性の高い問題について、周りの人に知ってもらうにはどのようにすればよいでしょうか。

私は女性というマイノリティとして、困難を覚えた経験があります。自身のアイデンティティと差別が繋がるとき、傷つくとともに絶望的な気持ちになります。

人権問題を語るということについてですが、例えば私は、女性の権利に関心のない人に対して、「自分がその意識を変えさせなくてはならない」と思うと、しんどい時があります。もちろん理解者は増えた方がいいですし、対話は必要です。しかし自分は、誰かの影響で意見が変わる、ということはそんなにない。ほかの人もそうだと思っています。自分の存在だけで意見が変わることはないだろう、と少し線を引いておく方が話しやすくなると思っています。

人権問題に関しては、当事者コミュニティや仲間のいる場所を持ち、共感しあうことが重要だと思います。

また、「人権」という枠での理解はなくとも、自分の痛みに確実に寄り添ってくれる親しい人を持つことも大切です。意見が違ったとしても、聞く耳を持ってくれるだろう、私のために動いてくれるだろう、という相手です。

私の経験で一つお話しさせてもらうと、2021年2月、当時オリンピック・パラリンピックの会長を務めていた森喜朗氏の女性蔑視発言を受けて、会長職の辞任を求める署名活動を行ったことがありました。

慶大の同級生は男性ばかりだし、「いい反応はされないかな」と思っていたのですが、意外とみんな協力してくれました。それはジェンダー平等のため、というより、「友達のやっていることを応援したい」という気持ちから、SNSでシェアなどの協力をしてくれたんだと思います。

もちろん女性というマイノリティは、人口の高い割合を占めるので、他のマイノリティと同じようには語れません。ただ、誰にでも人間関係の中で「この人は大事な人」「この人は5年後には一緒にいないかも」といった親密性のグラデーションがあると思います。自身のマイノリティ性に関して話すときは、それを考慮しながら、「しないで欲しいこと」や「知ってほしいこと」を伝えるのがいいかもしれません。

「今の大学生は必要以上に忙しい」

――今後解決していきたい社会問題は。

そうですね、やはり人権問題に関心があります。選択的夫婦別姓、同性婚はもちろん、包括的性教育や中絶の権利、緊急避妊薬のアクセスなど。潜在的に困っている人がたくさんいますが、可視化されていない問題についてです。

ここで特に上げたいのは、「今の大学生は必要以上に忙しい」という問題です。

就職活動の早期化であったり、物価の上昇に対してバイトの賃金が低く、そのためたくさん働かなければならないことであったり。学業も出席必須の場合が多いですし、昔より確実に忙しくなっていると思います。

私は学生時代とは、自分を知るための大切な時間なのだと考えています。

今の大学生はそのような時期に、学業やバイト、就活など、「上から降ってくるもの」で精一杯になってしまう状況があるのだと思います。

例えば就職活動で言えば、経済面ばかり語られ、学生が実際にどういう生活を送るか、ということが後からついてくるものになっているのではないでしょうか。

学生主体の活動や、若い人の目線での問題解決が大切だと思います。皆さんの学生新聞の活動というのも重要だと考えています。

 

「『慶應ブランド』に頼らない」自分の感覚を大切に

――現役の慶大生にメッセージはありますか。

まず、自分の感覚を大切にしてほしいです。就職活動でも受験でも、外部が提示したラインをクリアすることが求められます。しかし、他者からの評価のために進んでいると、だんだん自分が「嫌だ」と感じていることにも気付けなくなってしまう。

デンマーク留学の良かった点は、自分の「慶應ブランド」が通用しなかったことです。大学名だけで自分の存在が認められてしまうことは多々ありますが、自分はいつまでも大学名にこだわって生きるのはダサいと思っていました。

自分の感覚を大切にすること、肩書ではない価値を守ることは大切だと思います。

「特権性に向き合って」

また、慶應で学べるということには、特権性が伴います。入試を突破できた理由には、もちろん努力もあると思います。しかし、家庭環境や地域など、偶然得られた状況のおかげであることも事実です。私はテレビでコメンテーターをしているのですが、大学名で批判のされやすさは違うだろうと感じます。自分の恵まれた立ち位置や経験を、自分がいい思いをするためだけに使わないでほしいと思います。

ただ、特権性は一つの軸であって、慶應にいるからすべて恵まれているわけではないでしょう。苦しいと思うことがある人は、そのために動いてみてもいいのかな、と思います。

(飯田櫂)