慶大理工学部は2025年度より新たなAO入試を開始する。変更後の入試では、電気情報工学科・数理科学科・化学科の3学科で特定分野への興味の強さを重視した募集を行う。これによって分野融合に果敢に挑戦可能な人材の育成を図る。

 

変更点の概要

本入試変更は、学門別ではなく学科別に募集を行うことによって、特定分野への興味の強さを重視した募集を行うことを目指している。これは理工学教育・教養教育・語学教育を駆使して、基礎・人間性・国際交流を行う上での土台を作った上で、分野融合に果敢に挑戦可能な「課題を抽出し解決できる人材」、「時代に流されず時代の流れを作れる人材」の育成を図っている。分野融合教育を支える基幹教育の充実化を狙いとして数学・物理学・化学の特定分野に興味がある意欲ある学生を採用し先取り少人数制で先端科目に触れる機会を作ることも変更内容の一つである。

 

理系人材を取り巻く環境の変化

2025年度以降の理工学部の入試制度変更は社会における各種システムのブラックボックス化への懸念も起因する。ビッグデータを用いたAIによる分析は有用ではあるが、データ解析の本質や自然科学の基礎をきちんと理解しつつ、正しくAI技術を活用することが求められる時代を迎えつつある。加えて、科学技術の目的は自然現象・法則を理解することで自然への害を最小限に食い止めることで自然現象・法則との闘いに勝利することにある。これらのことを見失わないようにするために研究教育に取り組む必要があることから一連の入試改革はなされたわけである。

また、今回の入試変更で重視されている考え方に創発(emerging)がある。創発とは、構成要素の個々の性質・特徴からは予想できない結果を生み出すことを目指すことである。そして、これを推進するためには分野融合を行いやすい組織づくりが重要になる。そのため、将来の社会のニーズも考慮しつつ、また分野融合教育を支える基幹教育の充実化を狙いとして、エネルギー、環境、データ解析に関わる分野に特化した書類、筆記、面接の3段階での総合型選抜が実施されているわけである。

 

懸念と、改善と、強みと、

実は慶大大学院における理工学教育は問題点を指摘されていたことがあった。それは分野横断型の教育を行うために行われた過去の一連の改革によって科目選択の自由度の高さゆえに専門学力の涵養の機会を失うリスクが高まるのではないかという問題である。しかし、これに関して理工学研究科は2016年度において分野ごとに必要最低限の必修科目を設置することで見直しがなされて問題の解消がなされている。さらに、ある程度の自由さは享受し続けられることが大学院の魅力となって理工学部生の大学院進学率は七割を超えるのだという。こうして多くの博士課程人材を世に輩出している理工学研究科であるが、市場が必要としている以上の博士人材を供給しているのではないかという指摘があった。しかし、産官学連携による研究教育が進むことによって博士人材の重要性が社会に認識され、また国際的な共同学位プログラム等を推進することで、グローバル社会における博士人材の重要性が十分に認知され社会が彼らを満足に活用できるシステムを構築していくために大学院の組織づくりを現在進めているとのことである。

 

理工学部AO入試におけるこれまでの沿革

そして、今回テコ入れがなされたAO入試を最初に導入したのは慶大である。学内多様性の担保を目的として設置されたこの入試方式はSFCから始まって理工学部にも波及し、また、具体的な理工学部が求める人材についても、課外活動全般における顕著な実績を求めていたものから、2008年度からは科学技術に関連した顕著な実績を求め、学業成績についても指定校推薦と同等の基準となり、さらに2014年度からは国内外を問わず、科学技術に関連した顕著な実績を求めるなど、時代や指向性の変化に対して形式を柔軟に変化させてきた。今後の理工学部の動向と、卒業生たちのさらなる活躍に目が離せない。

 

前田颯人