今回は、急速なデジタル技術の進歩に焦点を当て、学生が自主的にITついて学ぶ場を提供する、慶大AI・高度プログラミングコンソーシアム(以下、AIC)の活動について、AIC代表矢向高弘教授に話を聞いた。世界のデジタル競争力ランキングによると、日本の総合順位は2023年には64カ国中、32位と、2019年から順位を落とし続けている(IMD)。そこで、他国と肩を並べるために、IT分野における最先端の教育が注目を集める。
全ての塾生に開かれたAI教育の場を
AICは2019年に創立された、塾生が牽引する最先端のAI学習コミュニティである。学部・学年を問わず、IT分野に興味を持つすべての塾生に門出を開いており、昨年度には日吉キャンパス内にAIC専用ラウンジが設置された。見晴らしの良いラウンジには大理石が敷き詰められ、快適な空間で活動が可能だという。塾生は無料で誰でも参加でき、2023年度までの5年間にのべ16,000人以上が受講した。設立の発端は、AIブームに伴い、AIについて学びたいという学生が多くいたからだという。驚異的な速度で進化するAIに対応するためにいち早く開講する必要性を感じたそうだ。
学生主体の活動
「学生が学生に教える」AICの活動は、塾生が互いに教えあい、学び合う半学半教の場を提供している。活動基盤の講習会では、優秀な学生を雇い講師を依頼しているという。その他、広報やサーバー管理等も学生が担う。また、企業を招いたイベント主催時には、各企業に担当学生がつき、学生の視点から企画に携わっている。それにより、学生の授業カリキュラムを考慮したイベント開催が可能となっていると矢向教授は話す。
コロナ禍も敏速にオンライン化に対応
活動開始から程なくしてCOVID-19が広まり、活動形態の変更を余儀なくされたことは大きな打撃だったと矢向教授は語る。生徒が直接やりとりする機会が無くなり、密なコミュニティを築けなくなったという。
そこで、AICはコロナ禍に対抗する手段として、いち早く活動をオンラインに切り替えた。「多くの学生は大変やる気が高く、オンライン化にもすぐに対応できました。AICは、慶應の授業がオンラインに切り替わるよりも先に導入していたと思います」と矢向教授は言う。コロナ禍で、AICの所属人数は2019年と比較して倍増した。
大学内の専門学校!?
AICについて矢向教授は、慶應の中にある小さな専門学校のような位置付けだと語った。ITの専門家を育成するというよりは、楽しみながら趣味の一つとしてAIについて学ぶ場に近いという。AIの嗜みがある学生を輩出し、彼らが実社会で何らかの形で役立てられることを期待しているそうだ。個人のレベルに合わせた講習会を受講でき、初学者から上級者までが活動に参加している。
単位認定を目指して
しばらくの間、右肩上がりであった参加者が、2023年秋頃から微減している。これについて矢向教授は、活動形態を大幅にオンラインから対面に移行したことが一因であると推測する。AICをより密で質の高い活動にするために、教員も深く関与して大学の単位や認定証を付与する授業を提供することも必要だと語った。いずれは、慶大内に全学部共通の科目のようなものが誕生するかも知れない。
最後に、矢向教授は、自身が関わる今後のAI研究活動について話した。今年4月、慶大とアメリカのカーネギーメロン大学とのAI分野における研究パートナーシップを締結したという。このプロジェクトには、AIC内にある生成AIラボも関わっており、AICが最先端の研究領域に関わることで、学生にもその学びを提供したいと語る。AICの活動の根幹には、最前線の学びを塾生に届けたいという強い思いがあった。
(高梨怜子)