心理学の目でプロレスを見る
頑強な身体に「原点回帰」の精神。身も心も鍛え上げるプロレスラー西村修氏の根底には、学問領域に留まることのない生きた哲学が流れている。
「プロレス界では、『その時代に適したプロレス』が求められる。今は、パワーの時代。でも、プロレスの本質は、パワーの力強さはもちろん、精神の強さが一番だと思う。それを忘れてはだめと思うし、その大切さを観客に伝えなければと思う」
パワーファイターの持つ力強さ、気迫、衝撃で観客を沸かせ、ショーとしての盛り上がりを重視する現代のプロレスの形に違和感を持った西村氏。プロレス本来の形を残したい、伝えたい一心で始めたのは、通信教育課程での心理学の勉強だった。
「時代を逆戻りさせることは出来ない。だから、プロレスの本質を心理学的な面から人にきちんと伝えられるように、プロレスにおける心理学を学術的に勉強しようと決めました」
高校卒業後は、プロレス修行の生活が中心。それ故、一般教養に関する自分の知識の狭さを痛感させられる日々が続いたという。
その中で気付いたのが「参考文献の梯子」をすることの大切さ。
「教科書、授業で出会うあらゆる人、モノ、コトが自分自身を立ち止まらせるきっかけを与えてくれる。だから出来るだけ多くのものに触れて、考えを巡らせたい」
例えば、史学。ある歴史上の人物に対して、その人の在り様や身に起こった出来事から、背景にあったであろう想いや生き様をなぞる。ひとりの人物から派生して、自伝や史書など、芋づる式に様々な情報に触れることで、得られる知識や想いは深まるのだという。
「初めはプロレスにおける自分なりの精神論を考える為に心理学を学び始めた。しかし今となっては、心理学だけでなく他の科目からの刺激も多い。それを自分自身に置き換えたり、立ち返ったりしながら学び続けています」
「学び」を「永遠に続けないといけないもの」と定義する西村氏。
「学びには終わりがない。だから、(通信教育課程の履修制限規定である)12年を意識するのでなく、12年を大いに突破してでも、自分自身の中で学びを続けていきたいと思っています」
学びを教科書や授業の中で完結せず、寄り道をすることで見えてくるものを自分の生き方、価値観に活かす。西村氏の言葉の節々からは、生きた勉強の大切さに気付かされる。
(曽塚円)